アイドル史を辿ってみると、山口百恵と入れ替わるようにして登場してきた松田聖子は、やはりエポックな存在です。
また、太陽と月というわけではありませんが、松田聖子とは異なるタイプの中森明菜が、“聖子ちゃん”を追うようにして現れたことも80年代の奇跡かもしれません。
というわけで、文庫の書評は『松田聖子と中森明菜』を取り上げました。
『松田聖子と中森明菜 [増補版] 一九八〇年代の革命』
中川右介
朝日文庫 972円
アイドルについて書かれた本の中で出色の一冊だ。昨年末の「紅白歌合戦」でも注目された聖子と明菜。この2人を、アイドルとしての「生き方」ではなく、歴史としての「軌跡」と「作品」で論じている。
登場した時から、聖子は自己プロデュース能力の高さで際立っていたと著者は言う。アイドルを演じる過程そのものを提示する、新しいアイドルの誕生だった。
一方、どこか犯罪的・挑発的イメージを感じさせたのが明菜だ。抜群の歌唱力で独自の世界を表現してヒットを生むが、やがて自分の中で虚構と実人生のバランスを崩していく。表舞台から長く姿を消していた歌姫。その復活への道のりはまだ始まったばかりだ。
『少女のための秘密の聖書』
鹿島田真希
新潮社 1728円
主人公の少女は母や義父との関係に倦み疲れている。そんな彼女に旧約聖書の世界を説くのは、性犯罪者と思われているお兄さんだ。アダムとエヴァ、カインとアベル、ノアの箱舟など、よく知られたエピソードがもつエロティックにしてグロテスクな実相が表出する。
『洋子さんの本棚』
小川洋子・平松洋子
集英社 1620円
“ふたりのロッテ”ならぬ2人の洋子さん。エッセイストと小説家が本と人生を語り合う。ピアス『トムは真夜中の庭で』から内田百『冥途』までを入り口にして披露されるのは、女性ならではの体験と思索だ。巻末の「人生問答」も男性にとって貴重なヒント。
『オートメーション・バカ~先端技術がわたしたちにしていること』
ニコラス・G・カー:著、篠儀直子:訳
青土社 2376円
ネット社会を痛烈に批判したベストセラー『ネット・バカ』。その著者の新作が本書だ。飛行機から医療まで、社会のあらゆる部分が先端技術によって「自動化」された現代社会。利便性に慣れるあまり、それなしではいられない事態に陥ってしまったと警告する。
(週刊新潮 2015.02.12号)