やらせの有無、言い分対立
NHK「クロ現」中間報告
NHKのクローズアップ現代で「やらせ」が指摘されている問題で、調査委員会は9日、中間報告を公表した。やらせの有無については調査を続けるが、番組で「(詐欺あっせんの)活動拠点」とした表現は誤りだったと認めた。詐欺をあっせんする現場を記者が突き止めたかのように構成した番組が、実際には旧知の関係者に依頼して撮影していたことも判明。識者からは「過剰な演出では」との声が上がっている。
番組は昨年5月14日に放送され、出家して戸籍名を変えることで債務記録の照会を困難にする「出家詐欺」の特集だった。大阪放送局の男性記者が詐欺あっせんの「活動拠点」を突き止め、ブローカーとされた男性にインタビュー。さらに現場を訪れた多重債務者を追いかけて、犯罪につながる認識はないかただす構成になっている。
ところが中間報告によると、記者は多重債務者の男性と8、9年前から知り合いで、「出家詐欺の相談に行く」と聞いたことをきっかけに取材が始まったという。多重債務者の男性が、ブローカーとされた男性に交渉して撮影したもので、事前に3人で打ち合わせをしていた。
さらに2人が相談する撮影では記者が同じ室内に残り、「よろしくお願いします。10分か15分やり取りしてもらって」と話す声や、やり取りが一通り終わったところで、「お金の工面のところのやり取りがもうちょっと補足で聞きたい」などと声を掛けた様子が記録されていた。
調査委は「番組を見た視聴者の多くは、このような形で撮影が行われたとは想像し得ないと思われる」として、取材・撮影の手法が適切だったか検証を進めるという。現場には記者のほかにも、ディレクターやカメラマンがいたことから、取材・制作のチェック体制についても調査する方針。
碓井広義・上智大教授(メディア論)は、「記者が撮影したい『絵』が先にあって、関係者をはめ込んでいった印象を受ける」と指摘する。
大阪市内の現場を番組では「(ブローカーの)活動拠点」として紹介していたが、実際には多重債務者の男性が、知り合いから鍵を借りていた部屋だった。男性は「自分が(撮影場所を)決めた」と話しているという。記者はこうした経緯を知らず、多重債務者の男性に「(ブローカーの)拠点でよいか」と尋ね、後日「それでいい」と返答があったので「活動拠点」と表現したという。NHKは「表現は誤りであり、裏付けが不十分だった」と認めた。
一方、「やらせ」の有無については、言い分が食い違っている。
記者は調査委の聞き取りに対し、「演技の依頼はしていない」と否定。取材に対し男性が詐欺の手口を詳細に語り、「われわれブローカー」と話したことから、ブローカーと確信していたという。NHKはさらに調査を進め、最終報告をまとめる。弁護士ら外部の調査委員の意見も聴いた上で公表する方針。
一方、ブローカーとして登場する男性は、「ブローカーの経験はなく、記者にやらせの指示を受けた。犯罪者のような放送をされ、憤りを感じる」として、NHKに訂正を求めている。男性の代理人弁護士は9日、中間報告を受け「各関係者の供述内容でポイントが明確化されたことは評価するが、承服できない部分も多い。内容を精査したうえで今後の対応を検討する」とのコメントを出した。
関西テレビの「『発掘!あるある大事典』調査委員会」委員も務めた音好宏・上智大教授(メディア論)は「それぞれの主張の食い違いを詰め切れていない。原因究明が不十分で再発防止に向けた言及もこれからと、中間報告とはいえ、あまりに不十分と感じた。思い込みで記者が突き進んだという印象は拭えない。視聴者に誤解を与えなかったかが今後のポイントだ」と話した。
記者は9日、朝日新聞の取材に「会社を通してください」と話した。(後藤洋平、中島耕太郎、岩田智博)
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9日のクローズアップ現代の放送では、国谷裕子キャスターが中間報告の内容を説明し、「活動拠点」と報じたことについて、「取材が不十分だったもので、部屋の借り主と視聴者の皆さまにおわび致します」と謝罪した。
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■NHKの中間報告の主なポイント
・「やらせ」指導の有無
出演男性は「演技を依頼された」。記者は否定
・出演男性はブローカーだったのか
男性は否定。記者は「間違いないと思った」
・撮影場所は詐欺あっせんの「活動拠点」か
裏付けが不十分で誤り
・指摘を受けた場面構成や撮影手法
視聴者に実際と異なる取材の過程や手法を印象づけた
(朝日新聞 2015.04.09)