本田靖春さんの絶筆となった連載をまとめたのが、『我、拗ね者として生涯を閉ず』(講談社)でした。
闘病生活をしながら書いた自伝的ノンフィクション。
こうして見ると、すごい書名です。
そして、『現代家系論』は、本田さんのいわば処女作にあたります。
こういう入手困難だった本が読めるという意味で、文春学藝ライブラリーは有難いシリーズです。
本田靖春 『現代家系論』
文春学藝ライブラリー 1566円
『不当逮捕』、『誘拐』などで知られる著者が没して10年。デビュー作である連作ノンフィクションが初めて文庫化された。
ある人物にスポットを当て、家系という背景を含めてその実相に迫っていく。対象としたのは、政・財・学・芸能などの分野における三代続きの家柄だ。羽仁五郎、湯川秀樹、永野重雄、武者小路実篤といった著名人たちが並んでいる。
著者は、羽仁を「“歴史漫談”が売り物のエンタテーナー」と呼び、鹿島守之助(鹿島建設会長)が築いた血縁を、政略結婚ならぬ「戦略結婚」だと看破する。一貫しているのは、相手の名声や業績にまったく影響されない立ち位置と、冷徹な取材者の目である。
貴田 庄
『志賀直哉、映画に行く~エジソンから小津安二郎まで見た男』
朝日新聞出版 1944円
『怪盗ジゴマ』から『東京物語』まで。志賀直哉は文壇屈指の映画ファンだった。著者は日記や随筆などを検証し、その軌跡を明らかにする。ディートリッヒ、ガルボ、原節子、そして高峰秀子。文豪はまた銀幕の美女たちを愛した。本書は「観客の映画史」でもある。
西牟田 靖 『本で床は抜けるのか』
本の雑誌社 1728円
冗談みたいな書名だが、実際に大量の本で床は抜ける。危機感を覚えた著者は事例を調べ、体験者の話を聞き、蔵書家の指導を受ける。大好きな本をいかに「処分」するか。その辛くて悩ましい問題と向き合った日々の報告である。仕事や家族との関係も他人事ではない。
内田樹、白井聡 『日本戦後史論』
徳間書店 1620円
『日本辺境論』の論客と、『永続敗戦論』で注目を集めた気鋭の政治学者。2人がこの国の課題を語り合う。軸となるのは「なぜ今戦争ができる国になりたがっているのか」だ。敗戦の本質の隠蔽。対米関係の矛盾。右傾化とシンガポール化など深刻度が増している。
杉山恒太郎 『ピッカピカの一年生を作った男』
小学館文庫 551円
どのジャンルにも“知る人ぞ知る”人物がいる。CMのクリエイティブディレクターとして長年活躍してきた著者もそんな一人だ。児童雑誌『小学1年生』の名作CMはいかにして生まれたのか。思考法はもちろん、時代のエッセンスをすくい取る極意も明かされる。
(週刊新潮 2015.04.09号)