川本三郎さんの映画批評は、必ず読む本の一つです。
1977年に筑摩書房から出た『朝日のようにさわやかに~映画ランダム・ノート』以来、多分ほとんどのものを、同時代で読んできたはずです。
川本さんの著作から、いつも映画について新たなことを教えてもらってきましたし、その鑑賞眼の確かさを信頼しています。
『映画の戦後』を読み終わったと思ったら、もう次の『サスペンス映画 ここにあり』(平凡社)が出てきました。
すごいエネルギーです。
週刊新潮「十行本棚」に書いたのは、以下の本です。
熊野以素 『九州大学生体解剖事件 七〇年目の真実』
岩波書店 2052円
敗戦直前の九大医学部で、米軍捕虜の生体実験が行われた。遠藤周作が小説『海と毒薬』で描いた事件だ。戦犯裁判では、死亡した首謀者の代わりに助教授の鳥巣太郎が死刑宣告を受けた。白い巨塔の中で、本当は何が起きていたのか。鳥巣の姪である著者が真相に迫る。
川本三郎 『映画の戦後』
七つ森書館 2376円
「映画をその時代のなかに置いて見る」と著者は言う。黒澤明の“汚さの美学”も、“詫びるヒーロー”高倉健も、昭和という時代との関わりで語られる。またアメリカ映画も同様で、「赤狩り」や「ヴェトナム戦争」への言及が興味深い。自身の葛藤も込めているからだ。
飯嶋和一、北方謙三ほか
『復活する男~冒険の森へ 傑作小説大全11』
集英社 2160円
冒険小説・ハードボイルドを軸に、“面白い小説”を集めた全20巻のアンソロジーの登場だ。この巻では北方謙三の代表作『檻』、藤原伊織の傑作短編『雪が降る』などが読める。志水辰夫『行きずりの街』や結城昌冶の掌編を収録した第16巻も同時発売された。
木皿 泉 『6粒と半分のお米~木皿食堂2』
双葉社 1512円
著者は『野ブタ。をプロデュース』『すいか』などの脚本家。夫婦で共同執筆という珍しいスタイルを貫いている。本書は新聞連載のエッセイを軸に編まれた。日常に向けるユニークな視線はもちろん、夫婦による創作談義や芸術祭ラジオドラマの脚本も味わえる。
(週刊新潮 2015.07.02号)