放送批評懇談会が発行する、専門誌「GALAC(ぎゃらく)」。
その最新号に、『70年代と80年代』の書評を寄稿しました。
『70年代と80年代~テレビが輝いていた時代』
市川哲夫 編
毎日新聞出版社/2700円+税
1970年は高校入学の年だった。大学卒業後、出版社を経て高校教師をしていた私が、テレビマンユニオンに参加したのは1981年。26歳の新人だった。つまり70年代のほとんどを学生・社会人という視聴者の立場で、そして80年代をテレビの作り手として過ごしたことになる。そのためだろうか、無意識のうちに、当時の自分とリンクさせながらページをめくる現在の自分がいた。
今年は戦後70年。編者は、70年代と80年代を戦後の青年期・壮年期と呼んでいる。古希となった現在とは何が異なり、何が変わっていないのか。この時代にスポットを当てることで、「この国のかたち」(司馬遼太郎)の変遷をとらえようというのが本書の狙いであり、その試みは成功している。テレビだけでなく、背景となる政治や文化や事件にも的確な目配りをしているからだ。
まず、“当事者”たちの人選が見事だ。70年代では、「時間ですよ」の久世光彦。「機動戦士ガンダム」の富野由悠季。「田中角栄研究」の立花隆。ロッキード事件を担当した東京地検特捜部の堀田力。情報誌「ぴあ」を創刊した矢内廣もいる。
また80年代には、「花王名人劇場」で漫才ブームを生んだ澤田隆治。「金曜日の妻たちへ」のプロデューサーだった飯島敏宏。「ニュースステーション」に立ち上げから携わった高村裕などが並ぶ。いずれも個人的回想を超えた貴重な証言である。
さらに、読み応えのある批評や論考が多いことも特色だ。関川夏央の「岸辺のアルバム」。宮台真司のコンビニと郊外。鈴木健司のブルース・リー。中森明夫の80年代アイドル。市川真人の村上春樹。保阪正康の中曽根政治などだ。これらによって、本書は広がりと立体感を持つ“同時代ドキュメント”となった。
(GALAC 2015年12月号)