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Channel: 碓井広義ブログ
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現場を熱演 “職業ドラマ”2本

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北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。

今回は、「重版出来!」と「トットてれび」を取り上げました。


現場を熱演 “職業ドラマ”
実力派2女優 持ち味発揮
実力派と呼ばれる女優2人が、今期のドラマでそれぞれの持ち味を発揮している。1本目は、黒木華が主演の「重版出来!」(TBS)。タイトルは、「じゅうはんしゅったい」と読み、本などの出版物が増刷となることだ。

主人公の黒沢心(黒木)はコミック誌の新米編集者である。ケガをするまでは柔道の日本代表候補だったという体育会系女子だ。元気や明るさはもちろん、相手との絶妙な間合いのとり方や勝負勘も武器になっている。映画「小さいおうち」や大河ドラマ「真田丸」などで見せた“和風でおっとり”なキャラクターとは大きく異なるが、コメディエンヌとしての才能も発揮して軽快に演じている。

出版不況の中、コミックというジャンルにも、創造とビジネスのバランスなど課題は山積している。だからこそ、心をはじめ良い作品を読者に届けようと奮闘する人たちを応援したくなるのだ。また脇を固める編集部の面々も芸達者ぞろいだ。編集長は松重豊、指導係の先輩がオダギリジョー、編集部員に安田顕(好演)や荒川良々などがいる。

彼らが投げるクセ球の波状攻撃を黒木は一人で受けて立ち、きっちりと打ち返していく。漫画家の世界やコミック誌の現場を垣間見せてくれる“職業ドラマ”として、また20代女性の“成長物語”として出色の1本だ。

満島ひかりが黒柳徹子さんを演じる「トットてれび」(NHK)の舞台はテレビ草創期である。放送開始は昭和28年。黒柳さんはNHKの専属女優第1号として、「ブーフーウー」「チロリン村とくるみの木」「若い季節」「夢であいましょう」などで大活躍した。

黒柳さんが生きたまま憑依(ひょうい)したかのような、満島のハイテンション演技から目が離せない。また、森繁久弥(吉田鋼太郎)、渥美清(中村獅童)、沢村貞子(岸本加世子)など往年のスターたちのエピソードも見ものだ。特に、22歳の黒柳さんが「近所のちょっとエッチなおじさん」と評した森繁がおかしい。

ドラマも含めすべてが生放送だった時代。作り手たちは不慣れで、機材も乏しかった。しかし、それを補って余りあるハチャメチャともいえる熱気があったのだ。それは今のテレビに一番欠けているものかもしれない。制作陣はプロデューサー・訓覇圭、演出・井上剛、音楽・大友良英の「あまちゃん」チームで、脚本は「花子とアン」の中園ミホ。黒柳さんという放送界のレジェンド(伝説)の若き日々は、そのままテレビの青春でもあった。

(北海道新聞 2016.06.06)


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