北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。
今回は、30周年を迎えた「世界ふしぎ発見!」について書きました。
「世界ふしぎ発見!」30周年
「歴史と遊ぶ」止まらぬ進化
土曜夜の「世界ふしぎ発見!」(TBS系)が30周年を迎えた。変化も浮き沈みも激しいテレビの世界で、長期にわたって視聴者から支持され続ける理由(わけ)を探ってみたい。
放送開始は、バブル景気の時代だった1986年。テレビ界では、「楽しくなければテレビじゃない」を標榜(ひょうぼう)するフジテレビの番組が人気を得ていた。
それに対し、「楽しいだけがテレビじゃない」の精神で登場してきたのがこの番組だ。目指していたのは、新たな知的エンターテインメントであり、「面白くてタメになる番組」だった。
30年間、一貫して番組作りを行っているのが、制作会社のテレビマンユニオンだ。企画したのは、現在もゼネラルプロデューサーを務める重延浩(現・取締役会長。樺太生まれ、札幌育ち。75歳)。
重延は番組コンセプトとして「歴史と遊ぶ」を掲げ、企画書の冒頭には「あなたもインディ・ジョーンズになってみませんか」と書いた。だから、番組で歴史の現場に立つのはレポーターではなく、ミステリーハンターなのである。
海外取材では事前に徹底したリサーチ(調査)が行われる。テレビ界に「リサーチャー」という新しい“専門職”を誕生させたのも、この番組だ。
また世界各地に飛んだディレクターたちも、リサーチャーから得た情報だけでなく、「現地の人も知らないような」ネタを見つけようとする。その上で視聴者にどう見せるか、伝えるかを必死で考えるのだ。
さらに、この番組が単なるクイズ番組ではなく、クイズ&トークというスタイルをとったことも新鮮だった。司会者(草野仁)と出演者(黒柳徹子たち)は、「親しき仲にも礼儀あり」の距離を保ちつつ、ユーモアと緊張感に満ちたスタジオを展開している。
かつて「笑っていいとも!」「オレたちひょうきん族」という放送史に残る番組を手がけた、フジテレビの横澤彪プロデューサー(2011年没)が、亡くなる3ヶ月前、重延にこう言った。「君、『ふしぎ発見!』が今、番組の中で一番新しいよ。いつも視聴者に気づかれないように変わっている」。
番組が長く続くと、知らぬ間に作り手自身が飽きてきたり、成功体験にあぐらをかいたりすることがある。その時点で番組の進化は止まり、視聴者はそれを見逃さない。
しかし、この番組の作り手たちは常に好奇心に満ちた目で歴史と人間に向き合っている。ぜひこれからも「テレビに何ができるか」を探りながら、視聴者と共に歴史と遊び続けて欲しい。
(北海道新聞 2016年10月03日)