自分の「定年後」のことを、まったく考えていない、と言えば嘘になる。
とはいえ、どうも上手い具合に想像できないし、しっかり考えることもできない。
というか、メンドくさいんだな、きっと。
『まれに見るバカ』などの評論やエッセイで知られる勢古浩爾さんは、34年間勤務してきた会社を59歳で辞めた。
『定年後のリアル~お金も仕事もない毎日をいかに生きるか』(草思社文庫)は、「いまやわたしは何者でもない」という立場になってみて、初めて実感する定年後を、まさに本音で語った一冊だ。
定年後の3大不安は、お金、生きがい、健康である。
世の中には、その対処法を伝授するハウツー本が氾濫しているが、勢古さんは、「秘策などない」と言い切ちゃうところがすごい(笑)。
さらに勢古さんは言う。
老後に備えて何千万円といわれても、ないものはない。そんな平均値や一般論に惑わされることなかれ。
また、「生きがい」や「やりがい」も無理に求めない。今日一日をつつがなく過ごせれば御の字だ、と。
ちょっと、ホッとする。
定年者(ていねんもの、と呼びたい)が欲しくなるのは、刺激ではなく、「平安な気分」らしい。
3大不安に対する「なんとかなるんじゃないの?」という“ほんわか”した基本姿勢が嬉しい。
「好きに生きてください」という前代未聞の結論にも、苦笑いしつつ、大いに励まされる。