「週刊新潮」の書評欄に書いたのは、以下の本です。
木村草太 『憲法という希望』
講談社新書 821円
11月3日は文化の日だ。曖昧なネーミングだが、本来は昭和21年に「日本国憲法が公布された日」である。憲法は半年後の22年5月3日に施行されて、それが憲法記念日になった。ならば今年の“公布記念日”に、憲法について考えてみるのも悪くないのではないか。
テキストには、法学者・木村草太の『憲法という希望』が最適だ。本質的なことを平易に語って飽きさせない。憲法を「過去に国家がしでかしてきた失敗のリスト」だと言い、無謀な戦争・人権侵害・権力の独裁を三大失敗として挙げる。これらに対応するのが、軍事統制・人権保障・権力分立という憲法の三本柱だ。
本書ではケーススタディとして夫婦別姓問題と米軍基地問題が論じられているが、特に後者が刺激的だ。辺野古移設のように新たな基地を造ることは、地方自治体の自治権を制限することになる。ならば、憲法92条「地方自治の本旨」に沿って、法律で定めなくてはならない。しかし、特定の地方自治体だけに適用される法律は、住民の合意なしに制定できない。憲法95条による「住民投票」が必要になってくるのだ。さあ、どうする? 安倍政権。
さらに本書のお薦めポイントがある。NHK『クローズアップ現代』元キャスター、国谷裕子氏との対談だ。インタビューの達人が著者に話を聞くことで、憲法をめぐる正確な事実関係、現在の課題の核心、問題解決に必要な要素、そして今後の進むべき方向性までが明らかになっていく。
斎藤文彦 『昭和プロレス正史 上巻』
イースト・プレス 2,592円
昭和のプロレスを語る際に外せないのが、力道山、ジャイアント馬場、アントニオ猪木という3人のスーパースターである。彼らがいかにして登場し、どのように闘ってきたのか。活字で記録された、怒涛の歴史がここにある。上巻である本書の主人公は力道山だ。
笑点、ぴあ:編 『笑点五〇年史 1966-2016』
ぴあ 2,000円
昭和41年に始まった、日本テレビの看板番組にして長寿番組『笑点』。今年、6代目司会者に春風亭昇太が起用されて話題となったが、初代はあの立川談志だ。本書では伝説の放送回を再現するなど半世紀の歴史を振り返ると共に、現在の番組作りの裏側も楽しめる。
山平重樹 『激しき雪 最後の国士・野村秋介』
幻冬舎 1,944円
野村秋介が、朝日新聞役員応接室で自らの胸を拳銃で撃ち抜き、自決したのは23年前。「身捨つるほどの祖国はありや」と歌った寺山修司に対し、「ある!」と答えた野村が、なぜ10月20日を自身の命日としたのか。その心情に迫る、思慕と追憶のノンフィクションだ。
(週刊新潮 2016年11月3日号)