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Channel: 碓井広義ブログ
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11月の北海道新聞「碓井広義の放送時評」

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秋ドラマで本領発揮
女優たちの代表作になるか!?
今期ドラマのナンバー1として、「逃げるは恥だが役に立つ」(TBS-HBC)を挙げたい。津崎(星野源)とみくり(新垣結衣)は「契約結婚(事実婚)」だ。夫が雇用主で妻は従業員。「仕事としての結婚」という設定がこのドラマの核になっている。

みくりは大学院出だが、就職活動に失敗。家事代行のバイトで津崎と出会う。戸籍はそのままだが、住民票は提出した。業務・給料・休暇などを取り決め、家賃・食費・光熱費は折半。もちろん性的関係は契約外だ。回を追うごとに津崎とみのりの奇妙な同居生活から目が離せなくなっているが、それは2人が見せてくれる「誰かと暮らすこと」の面倒臭さと楽しさに、笑えるリアリティーとドキドキ感があるからだ。

みのりには自分が美人だという自覚がない。高学歴女子の知性も嫌みにならず、性格の良さと相まって天然風ユーモアへと昇華している。また、とらえどころのない男・津崎(星野が好演)にも、徐々に人間味が出てきた。とはいえ、相手に対する気持ちや意識が変われば結婚生活も危機を迎える。今後の注目は2人の“こころの距離感”だろう。

「地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子」(日本テレビーSTV)の設定も絶妙だ。舞台は出版社だが、「編集部」ではなく「校閲部」である。開始前、多少の不安はあった。本や雑誌の原稿の誤字・脱字、事実誤認などをチェックする、重要ではあるが縁の下の力持ち的役割だからだ。

しかし始まってみれば、石原さとみのパワフルな演技がすべてを凌駕している。校閲の守備範囲を逸脱する仕事ぶりにリアリティーうんぬんの意見もあるが、過剰と純情がヒロインのキャラクターだ。近年の石原は松本潤や山下智久の相手役といった立場で、完全燃焼とは言えなかった。だが今回は、「鏡月」のCMで表現した大人の女性の可愛らしさも、「明治果汁グミ」のCMで見せたコメディエンヌの才能も、思う存分解放していい。まさに本領発揮である。

「逃げ恥」も、「地味スゴ」も、ヒロインの魅力を支えているのは、よく練られた脚本と自在な演出だ。たとえば「逃げ恥」では、「情熱大陸」や「サザエさん」、さらにNHKの深夜番組までがパロディーの素材となっている。また、「地味スゴ」では校閲した文字が画面上で乱舞する。作り手の遊び心だ。もしかしたらこの2作、新垣と石原、それぞれの“セカンドデビュー”ともいえる、代表作の1本になるかもしれない。

(北海道新聞「碓井広義の放送時評」 2016年11月07日)

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