「週刊新潮」に、以下の書評を寄稿しました。
「鉄道」をキーワードにミステリーを読み解く
原口隆行 『鉄道ミステリーの系譜』
交通新聞社新書 864円
鉄道ミステリーとは鉄道を舞台にした、もしくは鉄道を主題にした推理小説の総称だ。原口隆行『鉄道ミステリーの系譜』にも登場する松本清張『点と線』、西村京太郎『寝台特急(ブルートレイン)殺人事件』などが思い浮かぶ。
海外物ではコナン・ドイル『消えた臨急』、本職が鉄道土木技師だったF・W・クロフツ『死の鉄路』、アガサ・クリスティ『オリエント急行の殺人』などを著者は挙げている。
しかし本書の功績は、一般的には知られていない逸品を発掘していることにある。大正期の甲賀三郎『急行十三時間』。戦前では浜尾四郎『途上の犯人』、海野十三『省線電車の射撃手』、大阪圭吉『とむらい機関車』。戦後の芝山倉平『電気機関車殺人事件』、土屋隆夫『夜行列車』などだ。周到に書かれた梗概に刺激され、読んでみたくなる作品が並んでいる。
優れた鉄道ミステリーは、作品が書かれた当時の駅や列車に関してはもちろん、世相や風俗、社会情勢をも反映させている。探偵小説から推理小説へと至る過程を踏まえた上で、内外の鉄道ミステリーを紹介していく本書は、初心者からマニアまでの興味に応える心強いガイドブックだ。
なお、このジャンルについては同社新書シリーズの中に、辻真先『鉄道ミステリ各駅停車―乗り鉄80年 書き鉄40年をふりかえる』がある。また松本清張作品にスポットを当てた、岡村直樹『「清張」を乗る―昭和30年代の鉄道シーンを探して』もお薦めだ。
集英社:編
『週刊プレイボーイ創刊50周年記念出版「熱狂」』
集英社 1,944円
大判の重たいムック本を開く。篠山紀信や立木義浩が撮ったグラビア。柴田錬三郎や赤塚不二夫の人生相談。勝新太郎とスティービー・ワンダーの対談まである。150人を超えるアイドルたちの顔と肢体の変化に、日本の半世紀が表出している。断固、永久保存版だ。
(2016年12月1日号)
笠井潔、押井守 『創造元年1968』
作品社 1,944円
ベトナム戦争のテト攻勢、フランス5月革命、日本の10・21国際反戦デー闘争。揺れる世界を、後に小説家と映画監督になる2人の若者が目撃していた。本書では当時を美化することなく、自身の創造活動とリンクさせながら語り合っている。貴重な同時代証言だ。
(2016年11月24日号)