「地味スゴ」「逃げ恥」ともフォロワー多く
テレビ番組を録画で見る「タイムシフト視聴」の実態がビデオリサーチの調査で明らかになり、番組の人気がリアルタイムの視聴率だけでははかれないことがわかってきた。調査結果を見たテレビ局関係者の間で注目されているのが、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)とタイムシフト視聴との関連性だ。番組の人気とSNSとの相関を探った。【兵頭和行】
タイムシフト視聴は、ビデオリサーチが10月3日から関東地区1都6県の900世帯を対象に調査を始めたもので、放送から7日(168時間)以内に録画して見た番組を測定している。導入理由は、デジタルビデオレコーダーの普及で録画再生で番組を見る習慣が視聴者の間で定着し、その絶対的な数が無視できないほど多くなったためだ。
録画視聴の多さは、同社が11月14日に発表したタイムシフト視聴率上位30番組のランキングで証明された。1位はTBSの「逃げるは恥だが役に立つ」(逃げ恥)で、タイムシフト視聴率は13.7%で視聴率は12.5%と、タイムシフト視聴がリアルタイム視聴を上回った。
2位は日本テレビの「地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子」(地味スゴ)で、タイムシフト視聴率は10.8%と視聴率の11.2%に迫る勢いだ。両番組とも、視聴率にタイムシフト視聴率を足して重複分を除いた「総合視聴率」を算出すると、視聴率からほぼ倍増したことになる。
両番組に共通しているのは、公式SNSが充実しており、そのフォロワー数が多いことだ。「逃げ恥」は、主演の新垣結衣さんと星野源さんら出演者の撮影現場でのオフショットや、劇中で新垣さん演じる森山みくりがまかなう料理の写真を公開。料理レシピサイト「クックパッド」と提携してレシピも公開するなど、充実している。
「地味スゴ」は、主演の石原さとみさんが劇中で着用しているおしゃれな衣装をファッション雑誌風の写真で公開している。
フォロワー数は2日午後7時現在、「逃げ恥」がインスタグラム約38万6000人、ツイッター約41万9000人、「地味スゴ」がインスタグラム約30万4000人、ツイッター約11万5000人。
両ドラマともインスタグラムのフォロワー数では、タイムシフト視聴率上位10番組の中で1、2位となっており、ツイッターは「逃げ恥」が1位で、「地味スゴ」は「砂の塔 知りすぎた隣人」(TBS)▽「相棒」(テレビ朝日)▽「カインとアベル」(フジテレビ)に続く5位となっている。
ちなみにタイムシフト視聴率3位(9.5%)の「ドクターX」(テレビ朝日)は、もともとの視聴率が20.4%と高水準のため、タイムシフト視聴率も伸びたとみられ、ツイッターのフォロワー数は約1万6000人と低かった。
ソーシャルも使い分け
「逃げ恥」の峠田浩(たわだ・ゆたか)プロデューサーは以前、綾野剛さん主演のドラマ「コウノドリ」(昨年10~12月放送)を担当した。
その際、出演者手作りのフリップを使って「放送まであと○時間」という“カウントダウン”をツイッターで行い、好評を得たといい、「『楽しみになった』とか、『放送を忘れず見られた』とか、自分でカウントダウンの写真を送ってくれたり、視聴者とダイレクトに交流できた」と手応えを感じたという。
「逃げ恥」では媒体特性に応じ、「ツイッターはいろんな人と情報を共有したり、拡散してもらったりと情報的なものに。インスタグラムは料理など写真を中心に」と巧みに使い分けており、今回の結果については驚きながら「単純にうれしい」という。
SNSについて「TBSを見ていない人には番宣も届かない。ドラマを見ていただくために、普段テレビに接する機会の少ない方に届くような試み、接触を増やすための手立てとして大切にしている」という峠田プロデューサー。
「仕事していたり、お子さんを寝かしつけていたり、簡単に時間は動かすことができない。SNSで見て、感激してつぶやいたり、同じ時間を共有している感じが演出できれば。多くの人と共有したくなるドラマ作りができれば」と思いを明かしている。
ファッションで拡散
石原さんのファッション写真が「すごい拡散されている」というのが「地味スゴ」のインスタグラムだ。小田玲奈プロデューサーによると、キャストに石原さん、菅田将暉さん、本田翼さんなど若者に人気の俳優・女優をそろえ、ファッション好きの主人公を描くというストーリーから、相性がいいのではとインスタグラムに公式アカウントを設け、力を入れているという。
石原さんからもアイデアをもらって情報発信しているといい、「ツイッターは現場ではやっていることとか記事として面白いものが受けるが、インスタは(石原さん演じる主人公の)河野悦子の洋服とか、おしゃれな画像をさりげなく上げておけば、『調べたい』となる」といい、反応も「悦子のファッションと合わせたネイルにしてみたとか、活用してくれている」とその影響力の大きさに驚いているという。
タイムシフト視聴率とSNSとの関連性について聞くと「逆に知りたい。とりあえず録画して見るまでもなかった人が、番組終了後のインスタやツイッターの盛り上がりなどを見て、見てみようかとなっているのでは。後押しになっているかもしれない」と推測する。
タイムシフト視聴が多い現状について「ドラマはバラエティーと違い、『ちゃんと見よう』という意識が強いため、(録画して見ようと)後回しになる。ドラマをもっと気軽に見られるようにすることが重要かなと思う」とリアルタイム視聴に移行してもらうような方策を巡らせているという。
テレビ視聴の再評価が必要
上智大の碓井広義教授(メディア論)は「SNSの中心は若者たち。従来、若者たちは、時間とエネルギーをスマホに割くようになり、テレビは娯楽のトップの座から滑り落ちたといわれていたが、今まで見えなかった視聴スタイルが可視化されて、『実はドラマが若者たちに届いている』ことがこの調査で明らかになってきた」と指摘する。
「若い人にとって生活の中でスマホでのSNSコミュニケーションは不可欠だが、その際、盛り上がる大きなネタがテレビドラマ。スマホ片手に『このファッションかわいいわね』とか『今夜のドラマ面白かったね』と話題にし、拡散している。テレビの見られ方は変わってきており、そのことを再認識・再評価すべき時です」と問題提起している。
(毎日新聞 2016年12月4日)