本のサイト「シミルボン」に、以下のレビューを寄稿しました。
https://shimirubon.jp/reviews/1676706
街と人~変わるものと、変わらないもの
『靖国』のときも、「すごい書名だなあ」と思ったが、『東京』っていうのもすごい。読めば、ずばりのタイトルなのだが。
坪内祐三『東京』(太田出版)は、東京の街を歩きながらの青春回想記だ。本の帯には「自伝青春譜」とある。
ただし、歩いたのは2004年から07年にかけて(雑誌「クイック・ジャパン」での連載)だから、その時点での「現在」と「青春時代」が語られている。
目次を開いて、ランダムに読む。自分が好きな街。知っている街。気になる街。訳ありの街。一度も行ってない街。
坪内さんが書くその街との関係と回想に、自分自身の街との関係と回想が微妙に絡み合う。読みながら、やけに内省的になっていることに気づく。
たとえば、赤坂。坪内さんにとっての赤坂を読みながら、自分のいた会社が長くあったあの街を思い出している。私の80年代は赤坂がベースになっていた。
まだ焼けていない「ホテル・ニュージャパン」の和室で行われた構成会議。
一ツ木通りに面していた頃のTBSの地下にあった「ざくろ」で、先輩からごちそうになった「しゃぶしゃぶ」の味と値段に驚いた、駆け出しAD時代の自分。
ここのカレーが大好きで、週に一度は食べていた「トップス&サクソン」。
殿山泰司さんが座っている隣のテーブルで、文庫本を読みながらコーヒーを飲んだ喫茶店「一新」。
・・・こうしてすぐに挙げられる場所や店が、この本には全部出てくる。
他にも、神保町や早稲田や下北沢など、はやり読みながら勝手な回想に没入してしまう街がある。
街は変わる。変わってきた。そして、坪内さんも、これを読んでいる私も。その一方で、街にも、自分たちの中にも、どうしようもなく変わらないものがある。その両者を感じさせてくれる一冊だ。
文章との相乗効果を見せる北島敬三さんの写真もいい。まるで自分の記憶のワンシーンのようだ。
そうそう、巻末に坪内さんと北島さんの「エピローグ対談」が載っている。
では、「プロローグ対談」はどこかと思ったら、何と、カバーの裏側に印刷されていた。ぺろりと脱がして、読む。
でも、これって、図書館に収められた場合、どうなるんだろう。図書館では、本を必ず加工する。カバーを表紙に貼り付けたりするのだ。借りた人は、この大切な対談が読めるんだろうか。余計な心配だけど。