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Channel: 碓井広義ブログ
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かつて暮らした町と家のやわらかな記憶

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本のサイト「シミルボン」に、以下のレビューを寄稿しました。

https://shimirubon.jp/reviews/1676907


かつて暮らした町と家のやわらかな記憶
高校を卒業し、大学生となって上京するまで、ずっと親元に住んでいた。実家は商売をしていたから、「父親の転勤で引越し」みたいなことは一度もなかった。

一人暮らしを始めて最初に住んだのは、大学に近い下宿屋で、これが東横線の日吉だ。それ以降は、何度か引越しを経験している。東急大井町線の大岡山(東工大がある)。渋谷区神山町(道の向かい側はNHK)。そして、一旦、信州の小諸(教員の独身寮)に移って、また東京へ。今度は渋谷区の富ヶ谷だった。その後も、あちこち移り住んできた。

振り返れば、それぞれの町、それぞれの家に、それぞれの思い出がある。とはいえ、記憶はかなり薄れてきていて、細かい道筋や住宅の配置など、かなりあやしい。

その点、四方田犬彦さんの記憶力、また再現力はすごい。明治学院大教授で映画史の教鞭をとる四方田さんには、自らが住んだ町を舞台にした『月島物語』(集英社)や『月島物語ふたたび』(工作舎)などの著書があるが、『四方田犬彦の引っ越し人生』(交通新聞社)は、少年時代からの「引越し体験」と「住んだ町と家の記憶」を綴ったものだ。

この本を書いた55歳の時点で、海外も含め17回も住まいを変えていた四方田さんだが、一番興味深く読ませてもらったのは、1970年代の渋谷界隈をめぐる記述だ。「区役所通り」が、いつの間にか「公園通り」になっていった頃・・・。

それは、1973年に上京し、東横線沿線に住んでいた当時の学生としては当然で、銀座も新宿も、もちろん池袋もあまり馴染みがなく、「街」といえば渋谷だったのだ。このころに、渋谷のどこかで、そう、大盛堂の本屋さんとか、駅裏の古本屋さんとかで、少し年長の大学生である四方田さんとすれ違っていても不思議ではない。

ある町に暮らしたり、ある家に住んだりすることが、都会では、かなり偶然性による部分が大きい。「たまたま」ってやつだ。ところが、後から思うと、その町、その家で暮らしたことが、自分に小さくない影響を与えていたりする。この本を読んでいて、数十年ぶりで、以前住んでいた場所を訪ねてみたくなった。

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