日刊ゲンダイに連載しているコラム「TV見るべきものは!!」。
今回は、年末拡大版ということで、この1年を総括しました。
TV見るべきものは!! 年末拡大版
高市総務相が「電波停止」発言を
撤回していないことを忘れるべきではない
今年2月、衆院予算委員会で高市早苗総務大臣が、政治的に公平性を欠くと判断した場合の「電波停止」に言及した。確かに総務大臣は電波停止の権限をもつ。しかし、放送の政治的公平をめぐる議論の場で、その権限の行使を強調したこと自体、放送局に対する一種の恫喝(どうかつ)であり圧力だ。
放送法第4条の「政治的公平」の原則が政治の介入を防ぐための規定であることを踏まえ、政権のメディアに対する姿勢があらためて問われた。しかも現在に至るまで、高市総務相がこの発言を撤回していないことを忘れるべきではない。
続いて3月には、NHK「クローズアップ現代」の国谷裕子キャスター、TBS系「NEWS23」の岸井成格アンカー、そしてテレビ朝日系「報道ステーション」の古舘伊知郎キャスターの3人が降板した。いずれも毀誉褒貶(きよほうへん)はあるものの、特定秘密保護法、安全保障関連法など、この国のかたちを変えようとする政治の流れの危うさを、テレビを通じて伝え続けた人たちであることは事実だ。
こうした“もの言うキャスター”が時を同じくして画面から消えたことは、政権が目指すメディア・コントロールの“成果”でもある。実際に各局の報道番組はマイルドになり、たとえば南スーダンへの自衛隊「駆けつけ警護」などについても、本質に迫る報道が行われているとはいえない。来年は今年以上に、報道番組が何をどう伝え、また何を伝えないのかを注視していく必要がある。
■断然光った「逃げ恥」
ドラマでは、先日最終回を迎えたばかりの「逃げるは恥だが役に立つ」(TBS系)が断然光った。今どきの恋愛・結婚観というテーマへのアプローチの仕方が秀逸で、エンディングの“恋ダンス”も人気となり社会現象化した。同じTBS系では、漫画家の世界やコミック誌の現場をのぞかせてくれた黒木華主演「重版出来!」(脚本は「逃げ恥」の野木亜紀子)、前田敦子が新境地を開いた「毒島ゆり子のせきらら日記」なども挙げたい。
また、石原さとみ主演「地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子」(日本テレビ系)は、出版社の校閲部という舞台設定が新鮮だった。石原のファッションがインスタグラムなどSNSを通じて話題となり、若い女性たちを番組へと誘導した。この秋から、テレビ番組を録画で見る「タイムシフト視聴」の本格的調査・運用が始まったが、「地味スゴ」は、「逃げ恥」と並んで録画視聴の多さが目立ったドラマだ。
深夜枠ながら存在感を見せた「黒い十人の女」(日本テレビ系)は、市川崑監督が半世紀前に映画化した作品の現代版リメークだ。TVプロデューサー(船越英一郎)が抱える9人の愛人と妻(若村麻由美、快演)、合わせて10人の女たちの“たくましさ”がリアルで笑えた。
最後にNHKだが、大河ドラマ「真田丸」は三谷幸喜の脚本が功を奏した。全体は、いわば“三谷流講談”であり、虚実ない交ぜの面白さがあった。真田信繁(堺雅人、好演)をはじめとする登場人物たちのキャラクターも含め、歴史の真相は誰にも分からない。史実を足場に、ドラマ的ジャンプを試みた三谷に拍手を送りたい。
来年の「井伊直虎」は、近年ではすっかり鬼門となった、女性が主人公の大河である。1年後、「あれは杞憂だった」と言える内容と出来であることを祈るばかりだ。
(日刊ゲンダイ 2016.12.28)