本のサイト「シミルボン」に、以下のコラムを寄稿しました。
https://shimirubon.jp/columns/1677032
年末特集!
今年出版された、「映画」がもっと楽しくなる本
2016年もあと数日。ほんと、早いですねえ。年齢を重ねるごとに、1年が過ぎるのが加速度的に早くなっているような気がします(笑)。
というわけで、年末でもあり、今年出版されたエンタメ関係の“オススメ本”を紹介してみます。今回のジャンルは「映画」にしました。
『健さんと文太 映画プロデューサーの仕事論』
日下部五朗 (光文社新書)
今も週に1度は映画館のスクリーンと向き合うが、最も映画館に通ったのは70年代の学生時代だ。ただし、封切りを観るのはバイト代を手にした直後のみ。普段は二番館や三番館、そして名画座が定番だった。特に、数百円で2、3本の映画を観ることができる名画座は、学生には有難かった。
おかげで小中学生の頃に公開された高倉健の任侠映画も、オールナイトの特集でほぼ全作を追いかけることができた。
思えば60年代の後半の東映は、『日本侠客伝』『昭和残侠伝』『網走番外地』という3つのシリーズを同時進行で製作していたのだから、健さんも、東映も尋常ではない。いや、狂気の沙汰だ。
一方、73年に始まった『仁義なき戦い』シリーズはリアルタイムで観ている。映画館いっぱいに罵声と銃声が響き渡っていた。菅原文太は本物のやくざじゃないかと思ったものだ。
毎回スクリーンに映し出される筆文字で、「日下部五朗(くさかべ ごろう)」という、どこか凄味のある名前を覚えてしまった。こんなトンデモナイ映画ばかり作るのは、一体どんな人なのかと想像していたが、やはりトンデモナイ人(もちろん褒め言葉です)だったことが本書でわかる。
著者は、「プロデューサーは自分のコントロールできない監督、俳優と組んではいけない」と言う。何より「自分の意志が通せるかどうか」が問題なのだと。そこにあるのは、映画はプロデューサーが作る、という自負と自信だ。
こういう人物が語る高倉健や菅原文太が、面白くないわけがない。「健さんが制服の男とすれば、さしずめ文太は普段着の男」などと、さらりと言ってのける。ここでは紹介できないような秘蔵エピソードも満載だ。
『映画を撮りながら考えたこと』
是枝裕和 (ミシマ社)
『幻の光』で監督デビューして21年。今年公開された『海よりもまだ深く』は、是枝監督にとって12作目にあたる。本書は、テレビディレクター時代から現在までの取り組みを自ら総括する一冊。時に「ドキュメンタリー的」と評される作品が生まれる背景が興味深い。独自の創作・表現論でもある。
『ダルトン・トランボ~ハリウッドのブラックリストに挙げられた男』
ジェニファー ワーナー:著、梓澤登 :訳 (七つ森書館)
第二次大戦後、ハリウッドで吹き荒れた赤狩り旋風。売れっ子脚本家だったトランボも直撃を受け、仕事を奪われた。しかし彼は偽名で傑作を書き続け、『ローマの休日』などで2度アカデミー賞を受ける。あふれる才能と不屈の精神。闘い続けた男の70年の生涯は、この本を原作に映画化され(『トランボ~ハリウッドに最も嫌われた男』)、日本でも今年公開された。
『「世界のクロサワ」をプロデュースした男』
鈴木義昭 (山川出版社)
『生きる』、『七人の侍』など数々の黒澤明監督作品で、プロデューサーを務めたのが本木荘二郎だ。しかし、黒澤自身が語りたがらなかったこともあり(その理由は本書で)、日本映画の“正史”から置き去りにされてきた。この本は、本木の初の本格評伝であり、起伏に富んだ映画人の軌跡を明らかにする労作だ。高校時代にお世話になった“歴史と教科書の山川出版社”から出たことも、何やら嬉しい。
『鬼才 五社英雄の生涯』
春日太一 (文春新書)
1960年代に、『三匹の侍』(フジテレビ系)でテレビ時代劇の既成概念を打ち破り、80年代には、『鬼龍院花子の生涯』『極道の妻たち』などの大ヒット映画を生んだ五社英雄監督。毀誉褒貶の激しい63年の人生を、作品分析、本人の言葉、そして取材による事実の掘り起こしで見事に再構築した、熱い快作である。
『いつかギラギラする日~角川春樹の映画革命』
角川春樹、清水節 (角川春樹事務所)
つい最近も、カップヌードルのCMが見事なパロディにしていた映画『犬神家の一族』。その公開から40年が過ぎて、「製作者・角川春樹」も74歳となった。本書は70本にもおよぶ「角川映画」の流れをたどり、その意味を探るノンフィクションだ。元々は書籍の販売戦略だった映画製作が、目的を超えた文化運動へと転化し、やがて時代を動かしていくプロセスが明かされる。
『最も危険なアメリカ映画~「國民の創生」から「バック・トゥ・ザ・フューチャー」まで』
町山智浩 (集英社インターナショナル)
映画は社会の“合わせ鏡”だ。テーマや内容は、そのときどきの時代や社会を映し出している。たとえ、それが隠されたものであっても。著者は過去のアメリカ映画を検証し、トランプを次期大統領に選んだ国の本質に迫っていく。中でも『バック・トゥ・ザ・フューチャー』が、意図して“描かなかったこと”の分析は出色。どの作品も見直したくなること必至だ。
『怪獣から読む戦後ポピュラー・カルチャー~特撮映画・SFジャンル形成史』
森下 達 (青弓社)
大ヒットが続いている『君の名は。』と並んで、今年の映画界を席巻した感のある『シン・ゴジラ』。62年前の『ゴジラ』公開から現在まで、「特撮映画」とその解釈はいかに変遷してきたのか。気鋭の研究者である著者は、SFという文化と交差させながら、「非政治性」をキーワードに解読していく。