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Channel: 碓井広義ブログ
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ビジネスジャーナルで、Eテレ『おかあさんといっしょ』を解説

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「圧倒的人気番組」
Eテレ『おかあさんといっしょ』の真実
子供がピタッと泣きやむ
謎と膨大なノウハウ
現在子育て中の人はもちろん、子供がいない人も幼少時のなつかしい記憶として覚えているに違いない『おかあさんといっしょ』や『いないいないばあっ!』。まさに国民的といっていい、NHK Eテレが放送する幼児番組だ。

特に子育て中の家庭にとっては、Eテレを見せれば子供がピタッと泣きやむことから、非常にありがたい存在として重宝されている。『おかあさんといっしょ』や『いないいないばあっ!』は、なぜ長い間子供たちに支持され続けるのだろうか。

小栗旬、生田斗真もハマるEテレの魅力

1959年に放送が開始された『おかあさんといっしょ』は「2~4歳児向け」の番組として、実に60年近くも日本中の子供たちの成長を後押ししている。『いないいないばあっ!』はさらに下の「0~2歳児向け」で、こちらのスタートは96年だ。

いずれも幼児番組のなかで圧倒的な人気を誇っており、番組に登場するキャラクターのグッズや絵本、DVDに加え、地方を回るファミリーコンサートも大盛況だ。

子育て中の親同士の会話では、「どんなにギャン泣きしていても、大好きなキャラが登場したりお気に入りの歌がかかったりすると、ピタッと泣きやんでくれるので助かる」と、この2番組の名前が頻繁に出てくる。小さな子供を抱える家庭にとって、これほど生活に密着している番組はほかにないだろう。

Eテレの幼児番組には、多くの芸能人たちからもラブコールが寄せられている。昨年には、俳優の小栗旬がバラエティ番組で『おかあさんといっしょ』に関する「歌のお姉さんの交代劇」や「(人形劇の)ガラピコぷ~」について熱く語り、娘と一緒によく番組を見ているという俳優の大泉洋は14年に「会えるのなら『おかあさんといっしょ』の三谷たくみお姉さんに会いたい。ファンなんです!」と宣言している。

たくみお姉さんは16年3月に同番組を卒業したが、出演していた当時には俳優の生田斗真が「会いたい人」として名前を挙げたこともあった。

最新の研究結果を反映、色使いにも緻密な計算

Eテレの番組が人気な理由は、「子供も大人も見ていて楽しい」という高いエンターテインメント性だけではない。教育を目的としたEテレらしく、バックボーンも骨太だ。元テレビプロデューサーで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)の碓井広義氏は、以下のように解説する。

「NHKは、NHK放送文化研究所という放送研究機関を通じて、幼児のテレビ視聴に関するさまざまな調査・リサーチを行い、大学教授や育児・教育の専門家と連携して『児童心理学』や『児童文化論』といった分野の最新の研究成果を番組づくりに反映させています。基本的なフォーマットは変わらない長寿番組ですが、その意味では常に新しいものといえます」(碓井氏)

もちろん、理念だけでは子供たちの興味をひくことはできない。実際の画面では、乳幼児の視線を釘付けにするための工夫が施されている。たとえば、一見して気づくのが、画面にあふれる明るい“色彩”だ。

「スタジオ全体の色合いから出演者やキャラの衣装まで、色彩の設定はかなり細やかに練り込まれていますね。大原則は『明るいこと』『楽しげであること』『優しいこと』の3つ。使われる色も、原色を基本にパステルカラーまでで、暗い色や重たい色はほとんど使われていません。画面を見た子供たちが明るく楽しい気持ちになって、その場に参加したくなるような効果を生んでいます」(同)

また、06年に宇多田ヒカルが『みんなのうた』に楽曲を提供したことが話題になったように、Eテレは歌や音楽のクオリティの高さにも定評がある。制作にはかなりの労力を注いでおり、そのほとんどが番組オリジナルという力の入れようだ。半世紀以上にわたる蓄積は膨大で、歌のお兄さんに就任すると、1000曲近い歌を覚えなければならないという。

「いつも変わらない」からEテレは習慣になる

視聴者=子供の目線に合わせたEテレの細やかな配慮は、まだある。たとえば、『いないないばあっ!』では、ひとつのコーナーでカットが切り替わることはほとんどない。画面が切り替わってしまうと、仮に同じ人物やキャラを映していても「別の人が映っている」と認識してしまう恐れがあるからだ。

さらに、歴代最長の9年間にわたって歌のお兄さんを務めた横山だいすけが3月で番組を卒業するが、番組の進行役も兼ねるお兄さんもお姉さんも、近年は就任期間が長くなる傾向にあるという。また、彼らには、子供たちのイメージを守るために出演期間中は原則として「海外旅行」「結婚」「他番組への出演」が禁止という厳しいルールもある。

そして、碓井氏によると、実はこの「変わらない」ことが重要なポイントだという。

子供たちの環境はさまざまで、保育施設や幼稚園に通う子もいれば、家で親が面倒を見ているケースもある。そんな子供たちにとって、毎日決まった時間にテレビをつけると、必ず「同じ人やキャラが同じ歌や体操をやっている」というのは、非常に大きな意味を持つのだ。

「子供の教育で大切な要素のひとつが“生活の習慣化”です。生活のなかで、“朝8時になったから『おかあさんといっしょ』を見よう”というところから習慣化が始まるわけです。しかも、番組では同じお兄さんやお姉さんやキャラが、同じ世界観で画面のなかにいてくれる。そのため、子供たちは自然と親しみを感じるようになるのです。

番組で流れる歌や体操も同様で、番組を見た子供たちは同じことを真似して繰り返すなかで歌や踊りを覚え、その先に『もっと知りたい』という知的好奇心も生まれてくる。もちろん、長いスパンでは時代に合わせて変化はしますが、いいものは変えなくてもいいのです」(同)

Eテレの幼児番組は「子供が見るものだから、これくらいのレベルでいいだろう」ではなく、子供が見るからこそ時間も知恵も注ぎ込んで本気でつくられている。だからこそ、子供の気持ちを動かすことができるのだ。 文=常盤泰人/清談社

(ビジネスジャーナル 2017.03.28)

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