俳優の松方弘樹さんが亡くなったのは、今年の1月21日。気がつけば、3ヶ月以上がたちます。伊藤彰彦『映画の奈落~北陸代理戦争事件』(国書刊行会)を読み返すには、いい時期かもしれません。
1977年2月、深作欣二監督作品『北陸代理戦争』が公開されました。松方弘樹さんが実在の組長をモデルにした主人公を演じた、東映実録やくざ映画です。
実はその公開から2ヶ月後、映画の中で殺人事件が起きるのと同じ喫茶店で、なんと本当に組長が射殺されるという事件が起きました。いわゆる「三国事件」です。
なぜ、映画と現実がリンクするような事態が発生したのか。フィクションであるはずの映画は、進行中のやくざの抗争に、どのような影響を与えたのか。著者は丹念な取材と作品分析によって真相に迫っていきます。
本書から見えてくるのは、巨大な山口組に挑もうとした北陸の組長・川内弘の生き方であり、新たなやくざ映画の地平を切り開こうとした脚本家・高田宏治の執念です。
その時々のスキャンダルや事件をライブ感覚でつかみ、映画に取り込んできた東映。この『映画の奈落~北陸代理戦争事件』は、その東映を舞台とする”影の映画史”でもあります。