日経MJ(日経流通新聞)に連載しているコラム「CM裏表」。
今回は、杉咲花さんが出演している、リクルート・SUUMO(スーモ)のCMについて書きました。
リクルートSUUMO
最後の上映会「夢」篇
お辞儀で思い出す 青春過ごした部屋
学生時代に暮らしたアパートは、渋谷のNHK放送センターのすぐ近くにあった。ガス・水道・トイレ共同の四畳半で家賃は1万3千円。70年代半ばとはいえ格安だが、近所には寺山修司さんも住んでいた。渋谷駅に行く途中の本屋で立ち読みをする、大きな背中が懐かしい。
このCMで杉咲花さんが演じる女性が4年間を過ごした部屋は、明るくて住み心地も良さそうだ。保育士を目指して頑張る姿を見守ってくれた部屋。大切な夢を応援してくれた部屋。杉咲さんの心のスクリーンに映し出される回想を眺めながら、青春からはるか遠くまで来た自分を思って少しだけ感傷的になる。
しかし、最後のシーンで元気が出た。杉咲さんが、荷物を送り出して空っぽになった部屋に向かって深々とお辞儀をするのだ。渋谷の四畳半を出る時、同じように頭を下げたことを思い出した。その部屋を選んだのは偶然かもしれないが、住む人の気持ちで必然に変わるのだ。
(日経MJ 2017.05.01)