黒革の手帖 好調理由の1つは
脇固める役者のキャスティングの妙
武井咲(23)主演の『黒革の手帖』(テレビ朝日系)が好調だ。平均視聴率は初回放送が11.7%、第2回が12.3%とともに二桁越えをマーク。下馬評では「CM女優のイメージが強い武井にこの大役は務まらないのでは?」との声も多かったが、「銀座のママ」という色気ある役どころで新境地を開拓している。
ただ、忘れてはならないのは彼女の脇を固める俳優陣の活躍。元テレビプロデューサーで上智大学教授(メディア文化論)の碓井広義さんも、好調な滑り出しを見せた要因の一つは「キャスティングの妙にある」と分析する。
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今回の『黒革の手帖』放送前には、23歳の武井さんが銀座のママを演じるのは「若すぎる」という指摘がありました。正直私も「大丈夫かな」と思いましたが、ふたを開けてみたら「大健闘」といえる内容だと思います。ただ、武井さんが「若い」というハンデを克服できたのは、彼女の裏で支える制作陣の創意工夫があったことも忘れてはいけません。
まず挙げられるのは、「銀座最年少のママ」という設定です。将棋の藤井聡太四段に代表されるように、今年のキーワードの一つは「最年少」。その言葉ををさりげなく入れているのがいいですよね。2004年放送の『黒革の手帖』で主演を務めた米倉涼子さんの強烈な印象を払拭するのに、「いい設定を見つけたな」と思います。
そして武井さんの脇を固める俳優陣のキャスティングにも光るものがありました。武井さんは彼らが引き起こす波に乗っかるだけで充分というくらい、一人ひとりが見事にそのキャラクターを演じきっています。
真矢ミキさん(53)は、お母さん役からキャリアウーマン役まで幅広くこなしますが、銀座のママがぴったり似合います。「こんなママがいるお店に通ってみたいな」と思わせるくらいの風格が漂っています。「古きよき銀座のママ」を演じている時の真矢さんは、『ビビット』(TBS系)に出ている時よりも生き生きしているように見えます(笑い)。
◆私生活の鬱憤を晴らすかのような高畑淳子の迫力
奥田瑛二さん(67)は第2話での中心人物。単なるお金持ちのクリニック院長ということではなく、「女好き」というところが奥田さんの私生活と重なって見えて面白い。安藤和津さん(69)にバレないようにこういうことをしてきたのかな、と思っちゃいますよね(笑い)。ちなみにクリニック院長が「国有地をタダで手に入れる」というエピソードは、まさに森友学園問題とリンクするタイムリーなネタで、ドラマはこうあるべきだと改めて思いました。作品の中に風刺を入れてチクチクやるのは、歌舞伎も同じですから。
そして高畑淳子さん(62)は、私生活の鬱憤を晴らすかのような鬼気迫る演技を見せてくれました。奥田さん演じる院長を長く支えてきた看護師長であり、愛人という役どころで、最初は悪役のようなキャラでしたが、院長に裏切られた途端に人間らしい一面が垣間見えて「これはつらいよなぁ、かわいそうだなぁ」と同情を誘いました。やはり息子さんの不祥事の余韻が残る中での出演ですから、幸せオーラのある女を演じるわけにはいかない。そういう意味ではいいポジションに収まったと思います。
若手の中では仲里依紗さん(27)が光っています。『あなたのことはそれほど』(TBS系)に続いて重要な役どころで、じわじわ来ている感じがあります。女優としての彼女の武器は、素朴なキャラから悪役にギアが入る時の表情の変化です。派遣銀行員の時は気弱だった女性が、ホステスに転身して男を手玉に取る女に豹変する。したたかで現実的な女性の二面性をうまく出しながら、主人公・元子の足元をすくう最大のライバルになりそうです。
◆今後の展開に期待を抱かせる滝藤賢一、高嶋政伸
登場回数はまだそれほど多くないキャストも、この後の展開で何かとんでもないことを起こしそうな雰囲気をすでに感じさせています。元子に嵌められた銀行員を演じる滝藤賢一さん(40)なんかは、出てくるだけで「ただごとでは済まないな」という空気になる。予備校理事長を演じる高嶋政伸さん(50)も、独特の怪しさがあって“冬彦さん”を彷彿させるところがあります。伊東四朗さん(80)はまさに政界のフィクサーという感じ。「いかにもな感じだなあ」と思いますね。江口洋介さん(49)演じる代議士秘書も、腹に一物ありそうですね。亡くなった議員の地盤を継いで秘書が立候補するというくだりは、故・中川一郎氏と鈴木宗男さんの関係をなぞっているかのようです。
派遣銀行員が1億8000万円の横領をして銀座のママになるという、現実離れした設定ながらも、話の節々に現実とリンクする場面があるのが今回の『黒革の手帖』の見どころだと思います。
今後のストーリーの展開として、元子に嵌められた人たちの復讐が始まるでしょうが、脇役といっても一人ひとりが濃いエピソードを持っていそうなキャラばかりなので、一筋縄ではいかないと思います。何も持たない元子がゼロから這い上がり、叩き落されてはまた這い上がる。そののぼりくだりの人生を視聴者も楽しむというドラマ。個性的なキャラたちが次はどんな波乱を巻き起こすのか、いろんなパターンが考えられるので最後まで目が離せません。
(NEWSポストセブン 2017.08.02)