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サンデー毎日で、朝ドラ「わろてんか」についてコメント

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連続テレビ小説 「わろてんか」 
またもヒット確実か 丸わかりガイド

▼モデルは吉本興業創業者?「笑い」に生きる女の一代記

NHKの連続テレビ小説「わろてんか」が、今月2日にスタートした。吉本興業の創業者である吉本せいと思われる女性をモデルにした一代記。明治後期から第二次世界大戦後までの大阪を舞台に、寄席経営や笑いを求め奮闘するヒロインの姿を描いていく。

初代の桂春団治や花菱アチャコらのレジェンドから、明石家さんま、ダウンタウンまで数多くの芸人を輩出し、芸能界に君臨する吉本興業。明治末期の創業で、100年以上の歴史を誇っている。

創業者・吉本せい(1889~1950年)は、幼いころから笑い上戸な女の子だった。あるとき寄席に出かけ大きく心を動かされる。そこから、やがて日本中を笑いの渦に巻き込むべく、吉本の人生が地殻変動を起こしたように動き出した。

せいをモデルにしたと思われる主人公・藤岡てんを演じるのは、2000人以上の中からオーディションで選ばれた葵わかな(19)。ほんわかした笑顔が印象的な若手だ。TVコラムニストの桧山珠美さんはこう期待を寄せる。

「ここ数年の朝ドラのヒロインは、すでに知名度があり、完成された感のある女優が多かった。有村架純や吉高由里子、高畑充希などです。そうした中でまだ名前と顔が一致しない葵わかなは、ドラマで成長していくヒロインとともに、演じながら女優として伸びていく過程を見ることができるでしょう」

近年の「とと姉ちゃん」(2016年度上半期)や「べっぴんさん」(同下半期)のように、朝ドラといえば実在の人物をモデルにした実録路線が大半だった。そうした作品では、ヒロインの実人生から大きくはみ出ることが難しい。話があまり弾まず、ドラマチックな展開になりづらい弱点があったのだ。ところが今回のヒロインは、単なる優等生的な女性ではなく、芸能といういっぷう変わった事業を興した異色の人物。その人生がどう展開するのか、非常に楽しみな部分だ。

上智大の碓井広義教授(メディア文化論)は、こう指摘する。

「何といっても、吉本興業に触れることが勇気あるドラマといえるでしょう。単純にヨイショで終わるはずはありませんし、加えて、芸能あるいは芸能界の陰の世界をどこまで見せるのか、どう描くのか。それを切り捨ててしまうことはないと思いますし、踏み込んだ展開が楽しみです」

その見方でいくと、「カーネーション」(11年度下半期)で描かれた小篠3姉妹の母親の場合、その不倫までドラマの中に取り込み、一歩踏み込んだ作品となった。朝からいけない恋を描くのかと、当時大きな話題となった。

「今回の『わろてんか』も、単なる奇麗事の作品にするのではなく、描かなければならないことはしっかり描き、ドラマに広がりや奥行きをぜひ持たせてほしいところです。難しいところではありますが、恐らくそこまで描かないとドラマに真実味が出てこないでしょう」(碓井教授)

女子の大好物を揃えたキャスト

一方で、前出の桧山さんは逆にこんな危惧を抱く。

「最近のNHKは実際の番組で、吉本興業の芸人がまるでコラボしているかのようにいろいろな番組に食い込んでいます。ですから、あまり吉本を持ち上げすぎたり美談ばかりだと、意図しないところで反感を買うことになりかねない、そんな心配もあります」

そうであっても、“毎朝3回の笑いを取りたい”とNHKが謳(うた)い、芸能界の草創期を描く内容から、冒頭から視聴者の心をつかむのではないかと言うのは、朝ドラウオッチャーでライターの田幸和歌子さん。

「芸人が芸人としてキャラを押し出して出演したのは、ジェームス三木脚本で沢口靖子主演の『澪つくし』(1985年度上半期)での明石家さんまがルーツなんです。そこから芸人が本人のキャラを生かして出ることが始まり、いまではお馴染(なじ)みになっています。芸人が花を添えてきた朝ドラが、いよいよ本丸の世界を描くのかとワクワクしています」

今秋の朝ドラの見どころは、豪華なキャスティングにある。いまの朝ドラは、どんなイケメンが出演するかということも成否のカギを握っている。

「今回は、女子の大好物をよりどりみどり揃(そろ)えたような、あるいはかつての巨人軍のような強力な布陣を敷いています。『おんな城主 直虎』に出演し、異例のCDまで出した高橋一生を起用して、それだけでは飽き足らず、松坂桃李に千葉雄大、毛色が変わったところでは濱田岳に遠藤憲一。これだけでも見ますよ、という感じです(笑)」(桧山さん)

そこで、イケメン評論家の沖直実さんに今回の朝ドラ俳優を評価してもらった。松坂桃李は「梅ちゃん先生」(2012年度上半期)に続いて朝ドラ2回目の、ヒロインの相手役としての出演なので、安定的なポジションだ。遠藤憲一も大人の魅力が溢(あふ)れているという。

「主婦的に萌(も)えるのは、やはり高橋一生ですね。彼には引きの美学の色気があって、太陽ではなく月の魅力を感じます。前へ前へ出ようとする王道の王子様キャラではないけれど、必ず光っている存在なんです。また、イケメン評論家的にはスイート系の千葉雄大を推します。ヌクメン俳優と呼ばれていて甘く優しいのですが、初出演の朝ドラでそれをどう壊してくれるのか、期待が高まります。NHKが彼をどう使うのか、腕の見せどころです。これを機に、子犬のような可愛らしさから脱皮するかもしれませんね」(沖さん)

ヒロインの相手役、松坂桃李が演じる北村藤吉は夢が叶(かな)う前に亡くなることが既に分かっている。となると、藤岡てんは未亡人の期間がかなり長い。そこに登場するのが、日本のエンタメやショービジネスを普及させた青年実業家役の高橋一生だ。宝塚や東宝を立ち上げた小林一三を参考にしているといわれている。

「その高橋一生の関わり方が、作品全体を通しての注意ポイントになるのでは。もともとはヒロイン・てんの許嫁(いいなずけ)だったのが、てんが松坂演じる藤吉に思いを寄せていることを知り、それを後押しする報われない役です。ですけど、藤吉が亡くなってから再婚の可能性があるのではないかと私はみているんです」(田幸さん)

朝ドラマニアへのサービスも?!

確かに、NHKが「今回の作品はフィクションです。大胆に再構成します」と強調しているところを勘案すると、史実に忠実にというより思い切った展開が待っている可能性がある。しかもそれが、今を時めく高橋一生である。相当なボリュームが割かれることは十分に考えられ、期待大である。

近年、主演ではない朝ドラ俳優の中から、注目される存在が多く出てきている。「カーネーション」の綾野剛や、「ごちそうさん」(13年度下半期)では菅田将暉、「あさが来た」(15年度下半期)のディーン・フジオカもそうだ。意外な次代の注目俳優が巣立っていくことも楽しみだ。

女優陣も充実している。てんの母に鈴木保奈美、祖母には竹下景子、嫁ぎ先で意地悪をする義母役に鈴木京香らが顔を揃えている。

「鈴木保奈美はメジャーになる前に『ノンちゃんの夢』(1988年度上半期)にヒロインよりもきれいな従妹(いとこ)役で出演し、のちにトレンディードラマのスターになりました。久しぶりに朝ドラに戻ってきた印象です。個人的に驚いたのは鈴木京香。朝ドラの歴史の中でも1年間放送されたのは限られていますが、鈴木京香のスタート作品ともいえる『君の名は』(91年度)は、上品で美しいけれども演技が評価されませんでした。その後、民放で花開いたので、朝ドラに戻ってくることは感慨深いですね」(田幸さん)

「梅ちゃん先生」や「あまちゃん」(2013年度上半期)に出演していた徳永えりは今回、ヒロインの女中役。まったく面白くない芸人を演じる藤井隆も、かつて「まんてん」(02年度下半期)に出ていた。

「過去の朝ドラに出ていた俳優がこれだけ出演するのは、NHKは狙っていると思います。いま朝ドラというコンテンツは注目度が高くなり、細かい部分の読み解きを楽しむファンが増えている。もしかすると、再登場の人たちが、過去の作品に関係したことをちょろっと入れる、そんな細かいサービスをする可能性があると思います」(田幸さん) 朝ドラマニアには、たまらない展開が待っているかもしれない。

山崎豊子の『花のれん』は、今回の朝ドラと同じように吉本せいをモデルとした小説だ。舞台化もされている。また朝ドラ「心はいつもラムネ色」(1984年度下半期)にも吉本をモデルとした人物が登場している。それらとどんな差別化をした作品となるのか。

「わろてんか」とは笑ってください、笑ってほしいとの意。笑うことで生きる力が生まれてくる。そんな思いがちりばめられ、古きよきコメディータッチの温かい作品に期待が高まっている。 【本誌・青柳雄介】

(サンデー毎日 2017年10月15日号)

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