「週刊新潮」に、以下の書評を寄稿しました。
天才は天才を知る! 二人の音楽家の深い友情
柴田克彦 『山本直純と小澤征爾』
朝日新書 842円
柴田克彦著『山本直純と小澤征爾』の序には、『オーケストラがやって来た』のプロデューサー、萩元晴彦の名言が記されている。「直純は音楽を大衆化し、小澤は大衆を音楽化した」
2人とも「サイトウ・キネン・オーケストラ」に名を残す齋藤秀雄の門下生。一見対照的な彼らは修業時代から深い友情で結ばれ、互いに尊敬しあっていた。著者は、世界のオザワに「本当に直純さんにはかなわない」と言わせた音楽家にスポットを当てていく。
若い頃から指揮者として、また作曲家として活躍していた山本だが、顔と名前が広く知られるようになるのは1968年、チョコレートのCMがきっかけだ。気球に乗り、真っ赤なジャケットで指揮をする姿には、「大きいことは、いいことだ!」というCMソング以上のインパクトがあった。
驚くべきは山本が手がけた仕事量と質の高さだ。指揮者の仕事と同時並行で、『男はつらいよ』などの映画音楽、『8時だヨ!全員集合』をはじめとするテレビ番組のテーマ曲を作り、『オケ来た』にも出演。しかし、その過剰なほど幅広い活動ゆえに、クラシック界ではどこか異端視されていたと著者は言う。
山本が69歳で亡くなったのは、小澤との出会いから約半世紀後の2002年6月だ。若き日の山本は小澤にこう言った。「オレはその底辺を広げる仕事をするから、お前はヨーロッパへ行って頂点を目指せ」と。2人の天才は、まさにそれを実践したのである。
樋口尚文
『「昭和」の子役~もうひとつの日本映画史』
国書刊行会 3024円
『路傍の石』の池田秀一、『砂の器』の春田和秀など“天才子役”へのインタビュー集だ。少年俳優たちの目に、名だたる監督や役者はどう映ったのか。当時の映画やドラマに関する貴重な証言が並ぶ。また、思わぬ人が子役出身だったとわかる「子役列伝」も労作。
歌野晶午 『ディレクターズ・カット』
幻冬舎 1728円
長谷見潤也は制作会社のディレクターだ。報道ワイド番組のコーナー「明日なき暴走」で注目を集めたが、ヤラセによるものだったことが発覚。処分を受けた長谷見は、起死回生を狙って連続殺人犯を追う。映像というマジックの快楽と危うさが事件を加速化させる。
(週刊新潮 2017.10.19号)