秋ドラマ視聴率戦争
「米倉涼子」に放たれた刺客は「綾野剛」
各テレビ局による秋ドラマの視聴率戦争の火蓋が切られた。現在のところ、初回から高視聴率を叩きだした「ドクターX」(テレビ朝日)の独走状態にある。果たして、続々と放送が始まるライバルの中に、刺客となるドラマはあるや否や。
シリーズ5を迎えた米倉涼子主演「ドクターX~外科医・大門未知子」(木曜21時)は、初回から20・9%の視聴率をマーク。お馴染みの決めゼリフ、「私、失敗しないので」が飽きられることなく、依然として圧倒的な人気を見せつけている。
「このドラマは『水戸黄門』化していると言えますね」
とは、コラムニストの林操氏である。
「善人の穏やかな生活を悪人が脅かし、正義の味方が登場して問題を解決するという勧善懲悪の構図が出来上がっています。“控えおろう、この紋所が……”と同じ役割で、彼女の決めゼリフが、お年寄りも含めた幅広い層に受けているのでしょう」
安易に路線を変更しない、と言えば聞こえはいいが、今期のテレ朝は他に、「相棒season16」(水曜21時)や「科捜研の女 第17シーズン」(木曜20時)といった連作があることから、一度当てたら冒険は一切しない傾向とも言える。
その牙城をどうにか切り崩そうとする他局に目を向ければ、本家「水戸黄門」の制作局で「ドラマのTBS」は、「半沢直樹」「下町ロケット」に続いて池井戸潤原作、役所広司主演の「陸王」(日曜21時)を投入。これまでと同様に、手堅い作りだが、注目すべきは、別にある。テレ朝に対抗するかのように、医療モノで真っ向勝負は、綾野剛主演の「コウノドリ」(金曜22時)。実在する産婦人科医をモデルにした漫画が原作で、2年前にヒットしたドラマの続編となる。
ライターの吉田潮氏は、
「原作は出産を扱うリアルな現場を描いていますが、ドラマでも安直に作らず、真摯に制作しています。流産などのシリアスなテーマも取り上げていて、斬り込んでいながら、ハートフルな主人公の役柄をしっかりと再現し、『ドクターX』と対極にあるようなドラマといえます。前回も視聴率は10%を超えていたので、今回はそれを上回るかもしれません。安心して見られる大人のドラマです」
星野源や坂口健太郎が脇を固め、女性ファンを獲得するのは間違いなさそうだ。
“大穴”の期待
翻って、視聴率三冠の座を守る日テレは、男性ファンを意識したのか、綾瀬はるか起用の「奥様は、取り扱い注意」(水曜22時)が、初回11・4%と好調だ。
日テレ関係者も、
「ウチの一押し。彼女がスタントマンなしで演じるアクションシーンが見どころ」
過去に特殊工作員だった綾瀬が、専業主婦となって、近所のトラブルを解決するという突飛なストーリーだが、上智大学の碓井広義教授(メディア文化論)は、
「確かにアクションが格好良く決まっています。彼女が昨年から出演しているアクションを多用したNHKドラマ『精霊の守り人』における訓練の成果でしょう。初回は、見た目はほんわかした彼女が、知人のDV夫を懲らしめるというギャップが際立っていました。ただ、気になる点は、ご近所トラブルを腕力で解決するというのがパターン化しないかどうか。毎回同じだと、視聴者は飽きてしまいます」
特殊工作員の能力はアクションだけではないから、如何に問題解決のバリエーションを見せることができるかに掛かっているようだ。
このところ低調なフジテレビは、夏にヒットした月9ドラマ「コード・ブルー」に続けて巻き返しを図りたいところ。今回、同じ枠で放送される「民衆の敵~世の中、おかしくないですか!?」は、主婦の篠原涼子が市議会議員となり、政界や社会にはびこる悪をぶった切るというストーリー。もっとも、衆院選の影響で、放送開始が1週延期となり、
「のっけから味噌を付けてしまいました。しかも、ドラマより、現実の選挙の展開が面白過ぎます。このままではドラマが陳腐に見えてしまうのでは」(林氏)
一方、前宣伝がほとんどなかったため、初回の視聴率は7・6%と振るわなかったが、浅野忠信と神木隆之介主演の「刑事ゆがみ」(木曜22時)は、今後、“大穴”になると期待が掛かる。先の吉田氏が、
「最近の刑事ドラマに群像劇が多いなかで、このドラマは、2人の演技をじっくり見ることができます。浅野の存在感も空気感もいいし、神木の頼りない刑事姿もはまっている。いまのところ、全局の中で一押しです」
と言えば、碓井氏も
「型破りな役の浅野と、成績優秀でも腹黒い役柄の神木の掛け合いがいい。口コミで“普通の刑事ものと違う”と広がったら、もっと数字にあらわれそう」
今からでもまだまだ間に合う「秋ドラマ」。その戦いは始まったばかり。
(週刊新潮 2017年10月26日号)