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Channel: 碓井広義ブログ
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日曜劇場「陸王」 個性と力量光る福澤克雄の演出

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北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。

今回は、日曜劇場「陸王」について書きました。


個性と力量光る福澤克雄の演出
日曜劇場「陸王」(TBS―HBC)の舞台は、埼玉県行田市にある老舗足袋メーカー「こはぜ屋」。昔ながらの足袋作りだけでは会社の将来が危ういと考えた、4代目社長の宮沢(役所広司)が新製品の開発に乗り出す。それがランニングシューズ「陸王」だ。

当初、銀行は実績がないことを理由に融資を渋るどころか、20人しかいない社員のリストラを強要してきた。しかし宮沢は、「これ(陸王)は、こはぜ屋100年の歴史を支えてきた社員から託された“たすき”です!社員たち一人一人がこのたすきを繋ぐランナーなんです」と言ってそれをはねつける。

その後も難題が待ち構えていた。試作品が出来ても、大手メーカーに囲い込まれている一流のランナーは履いてくれない。見込んだ茂木選手(竹内涼真)をサポートできるようになるまでには多くの時間を費やした。素材の調達も大変で、シューズの底に最適な「シルクレイ」という新素材の特許を持つ飯山(寺尾聰)の協力を得るのに苦労した。さらに、ようやく手に入れた本体部分の繊維素材も大手に横取りされてしまう。

こうした「立ちはだかる壁」を次々と設定することで物語に起伏が生まれ、それを乗り越える姿に見る側の共感が広っていく。原作はドラマチックな展開に定評がある池井戸潤の小説。脚本の八津弘幸をはじめとする制作陣も、「半沢直樹」「下町ロケット」などの“池井戸ドラマ”をヒットさせてきた面々だ。

中でも福澤克雄ディレクターの存在が大きい。池井戸作品以外にも日曜劇場の「南極物語」や「華麗なる一族」などを手がけてきたが、“男のドラマ”の見せ方が実に巧みなのだ。物語の流れにおける緩急のつけ方。登場人物のキャラクターの際立たせ方。映像におけるアップと引きの効果的な使い方などに「福澤調」と呼びたくなる個性が光る。

かつてTBSのドラマ部門には、「時間ですよ」「寺内貫太郎一家」の久世光彦、「岸辺のアルバム」「ふぞろいの林檎たち」の大山勝美や鴨下信一といった看板ディレクターがいた。いつの頃からか「映画は監督のもの」で、「ドラマはプロデューサーのもの」という雰囲気が出来ている。

しかし、ドラマもまた演出家の個性と力量で、作品の出来が左右されるはずなのだ。画面を見ただけで福澤ディレクターの演出だとわかる作品は、「久世ドラマ」などと同様、「福澤ドラマ」と呼んでいい。そんな“署名性のあるドラマ”を見る楽しみが、この「陸王」にはある。

(北海道新聞 2017.12.05)

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