「週刊新潮」に、以下の書評を寄稿しました。
ハーバード大の名物教授が
あの映画から世界を読み解く
キャス・R・サンスティーン:著、山形浩生:訳
『スター・ウォーズによると世界は』
早川書房 2160円
映画『スター・ウォーズ』(後のエピソード4/新たなる希望)がアメリカで公開されたのは1977年5月のことだ。日本では約1年遅れの78年7月1日が初日だった。当時、社会人1年生だった私が、弟と2人で有楽町の「日劇」に向かったのは1週間後の8日だ。ゴジラも愛した円筒形の建物を幾重かの行列が取り巻いていた。館内での興奮も忘れてはいない。それは映画体験を超えた、「スター・ウォーズ体験」と呼べるものだった。
あれから約40年、最新作『最後のジェダイ』へと至る壮大な物語が続いてきた。個人的には、エピソード4~6の「旧三部作」が好みだが、魅力的なサイドストーリー『ローグ・ワン』にも一票を投じたい。
これまでシリーズの新作が登場するたびに、「スター・ウォーズ本」とも言うべき出版物が書店に並んできた。キャス・R・サンスティーン著『スター・ウォーズによると世界は』もまたそんな一冊だが、著者がハーバード大学ロースクール教授だという点に注目した。
本書が扱うテーマは多岐にわたる。ジョージ・ルーカス監督は、この物語をどのように発想したのか。最初の1本であるエピソード4が、予想を裏切るような大成功を収めたのはなぜか。著者が「最も重要な主題」と呼ぶ父性、救済、自由の3つが、いかに語られているか。また、このシリーズで描かれる政治、反乱、帝国などの意味。さらに行動科学、フォースについても考察していく。
中でも、この「現代の神話」を読み解く際のキリスト教、エディプス(父子の葛藤)、ジハード(聖戦)といった13の視点が興味深い。「英雄の旅」という昔から存在する物語を予想外の環境に置くことで、新たな価値と感動を生み出したと言うのだ。しかし本書の最大の魅力は、時に強引とも思える論理展開によって語られる作品分析が、丸ごとスター・ウォーズへの熱烈なラブレターになっていることだろう。
蓮見恭子 『襷(たすき)を我が手に』
光文社 1728円
実業団のマラソン選手だった千吉良朱里は、浪華女子大学から駅伝部の創設監督として招かれる。一人で選手を集め、徐々に鍛え上げていくが、女子駅伝特有の困難や新興勢力の悲哀が待っていた。しかし朱里たちはあきらめない。やがて勝負の時がやってくる・・。
ジョン・アガード:作、
ニール・パッカー:画、金原瑞人:訳
『わたしの名前は「本」』
フィルムアート社 1728円
「本」自身が語る、本の自分史だ。古代メソポタミアでの文字の誕生に始まり、ペーパー(紙)の先祖であるパピルスの巻物、グーテンベルグの印刷機などを経て電子ブックの登場まで。あらためて「紙の本」が読めることの幸せを実感する、本好きのバイブルだ。
芦原 伸 『完全保存版 西部劇を読む事典』
天夢人 1944円
珍しい個人による西部劇事典。14年前の本に加筆した完全保存版だ。開拓史、民俗学、英雄、銃など全9章から成る。たとえばガンマン(拳銃使い)には3タイプがあるという。保安官助手、警備員、そして用心棒。DVDで西部劇を観る際、手元に置きたい一冊だ。
(週刊新潮 2017年12月28日号)