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「倉本聰 ドラマへの遺言」 第11回

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倉本聰 ドラマへの遺言 
第11回
「処女喪失」は五月みどりさんに
書いてくれと頼まれた

オトコには理解しがたい女性特有の悩みや心情にも“タブー”を恐れず斬り込んだ「やすらぎの郷」(テレビ朝日系)。倉本氏が着想を得たのは、ある女優のひと言だった。

碓井 菊村栄(石坂浩二)が三井路子(五月みどり)から、女性の3つのターニングポイント(処女喪失、男に金で買われる、男を金で買う)を盛り込んだ芝居の台本を依頼される、というエピソードが話題になりました。

倉本 あれなんか、五月(みどり)さんに本当に書いてくれと頼まれた話ですからね。いつぞや聞いて、仰天して。その数日後、たまたまある料理屋のカウンターで飲んでいたら、山田五十鈴さんと一緒になっちゃって、五十鈴さんとは特別親しい間柄ではなかったんですが、この話をしたら、大飲んべえの五十鈴さんのグラスを持つ手が止まっちゃって、「五月さんて、凄い方ねえ」と言った。あれだけ男遍歴の多かった五十鈴さんが驚かれたのは、ものすごく心にしみましたね。

碓井 あれが実話だったとは……。

倉本 実話じゃないとあんなこと、僕、思いつかないですよ。

碓井 これは一度うかがってみたかったんですが、先生は女性が主人公の作品は、あまり積極的にお書きにならないような気がして。

倉本 書きづらいというか、女性の心理が分からない。女っていうのは、まず、みんな、年上に見えちゃうんですよ。いまだに15、16歳ぐらいの女の子を見たら、もう年上だって感じ。なんだか見透かされている気がして。自分の思考が12歳ぐらいで停止しているんですかね。若いときからダメですね。だから、恋をするのにも苦労します。

碓井 恋の話といえば、菊村が「シナリオを書く際には疑似恋愛までする」と言っていましたが、これって先生の実体験ですか。

倉本 そうですね。やっぱり、ある種、しないとダメですよ。ライターは常に疑似恋愛しています。疑似恋愛してラブレターを書くような気持ちなわけですが、男の登場人物でもある種、そうなんですよ。ただし、男に対しては、相手役の女の子の身になる。そう考えると、無数のラブレターを書いています。相手の女優さんから自宅に電話がかかってこようものなら、女房がいると、内心、ドキッとしたりしますよ。なにがあるわけでもないのに。

碓井 脚本が完成したら失恋した気持ちに?

倉本 書き終わると、疑似恋愛も終わる。ときには振られたって感じで失恋に終わることも。得恋にはならないですよね。なかなか。(つづく)

(聞き手・碓井広義)

▽くらもと・そう 1935年1月1日、東京都生まれ。東大文学部卒業後、ニッポン放送を経て脚本家。77年北海道富良野市に移住。84年「富良野塾」を開設し、2010年の閉塾まで若手俳優と脚本家を養成。21年間続いたドラマ「北の国から」ほか多数のドラマおよび舞台の脚本を手がける。

▽うすい・ひろよし 1955年、長野県生まれ。慶大法学部卒。81年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。現在、上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。笠智衆主演「波の盆」(83年)で倉本聰と出会い、35年にわたって師事している。


日刊ゲンダイ連載「倉本聰 ドラマへの遺言」 
https://www.nikkan-gendai.com/articles/columns/3212

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