小室哲哉不倫報道論争
逃げ場を残すのは報じる側の矜持
「TM NETWORK」デビューから35年。音楽界のレジェンドが、あっけなく引退した。最近、数多あった不倫報道の中でも、「小室ショック」はちょっと違って、とにかく世間に不愉快な後味を残したようだ。その理由はどこにあるのだろう。
「不倫だ!」「ゲスだ!」と書き立てたわけではない。『週刊文春』が報じたのは《これからもKEIKOを…懺悔告白40分 小室哲哉“裏切りのニンニク注射”》と題した記事だった。しかし、その記事が大きな物議を醸している。「今回の不倫騒動はちょっと違う」「やりすぎだ」という声が大きくあがっているのだ。
1月18日、看護師との不倫疑惑が報じられると、小室哲哉さん(59才)は翌19日に都内で1時間半の長い会見を開き、音楽活動からの引退を唐突に表明した。
疑惑を報じた文春の公式ツイッターには数千件の書き込みが殺到し、その多くが《小室さんを返して》《なんて不愉快な話》《悲しい気持ちにしかならない記事》などと報道を批判し、文春編集部にも苦情電話がかかり続けたという。
一般読者からの批判だけではない。堀江貴文さん(45才)は「クソ文春」といい、《自殺者を出しても罪の意識を持たない、検察や特捜部と同じ》と声を荒らげた。
ベッキー(33才)のゲス不倫から2年間、本誌・女性セブンも含め週刊誌によって多くの不倫報道が行われたが、小室さんのケースほど“拒否反応”が強かったものはなかった。
上智大学教授の碓井広義さん(メディア文化論)の話。
「一昨年の1月のベッキーさんの騒動以来、不倫報道が急増したのは、週刊誌という活字メディアがネタを作り、テレビはそれを追いかけるだけでラクに視聴率が取れたから。一昔前なら“不倫は下世話”と躊躇したはずが、視聴率を稼げるコンテンツと見たテレビはワイドショーのみならず報道番組でも扱うようになった。この2年間は、“不倫報道バブル”といえる状況でした。しかし、小室さんの件で、このバブルも天井にさしかかり、冷静になりつつあるように感じます」
◆KEIKOの気持ちは誰にもわからない
「KEIKOさんはホッとしてるかもわからないよ」。情報番組でそう語ったのは演出家のテリー伊藤だ。
小室さんの妻で、『globe』のボーカル・KEIKO(45才)は、2011年10月にくも膜下出血で倒れ、現在もリハビリ中。小室さんは会見で、KEIKOが音楽に関心を持たず、小学4年生の漢字ドリルを楽しんでいる様子や、会話や集中力が続かないことなどを明かし、介護で心身ともに疲れ果てていると告白した。
テリー伊藤はこう続けた。
「奥さんが倒れたとか、ご主人が倒れたとか、その時に旦那がまだ若いから“ちょっと他の人と遊んでもいいわよ”という気持ちを持っている可能性もありますよ。(中略)私、倒れているから、あなた浮気していいわよ、みたいなね(中略)それはもう、その夫婦にしかわからない」
小室さんは今回の騒動をKEIKOに説明したが、どれだけ理解できているかわからないと語った。夫ですらそうなのだから、KEIKOが今思っていること、感じていることは、他人の誰にとっても想像にしかすぎない。
「不倫」とは結局、夫婦の問題だ。もし他人やメディアが不倫を糾弾できるとしたら、それは“夫(妻)の立場に立つ”という建て前があってはじめて、“不倫は許せない!”と怒ることができるはずだ。
たとえば、渡辺謙(58才)の妻・南果歩(54才)は、発覚から半年以上経っても怒り心頭で夫に自宅の敷居をまたがせていない。上原多香子(35才)の夫・TENNさんは妻の不倫を知って自死を選んだ。夫婦の信頼を裏切った──それが周囲が不倫を追及する根拠だったのだ。
しかし、今回の場合はテリー伊藤が言うように、KEIKOの気持ちは誰にもわからない。小室さんへの信頼も揺らいでいないかもしれない。文春が「裏切り」と書いても、“裏切っているかどうか”は誰にもわからないところに、今回の不倫騒動の特徴がある。
ロンブー淳も自身のラジオ番組でこう話している。
「KEIKOさんの今の気持ちを誰も推し量れないことを考えたら、他人が人の不倫をいいとか悪いとかジャッジを下すのはどうなのか」
ジャーナリストで、元週刊文春記者の中村竜太郎さんが指摘する。
「日本で介護が必要な人は現在640万人で、小室さんと同じような立場の家族やお世話をする人はその何倍にもなります。だから、小室さんの苦労も、KEIKOさんの置かれた状況も身に染みてわかる。もしKEIKOさんに判断能力があって、小室さんと大人同士の会話ができる状態であれば、ここまで“報道が悪い”とならなかったのではないでしょうか」
小室さんが早々に引退したことも、他の不倫騒動とは一線を画す。ベッキーは最初の会見で“不倫していない”と嘘をついたし、今井絵理子議員(34才)は「一線を越えていない」という言い訳をして炎上した。
「小室さん自身が会見で、60才を手前に音楽活動の限界を感じていたと話しているのだから、不倫疑惑だけが引退の理由ではない。しかし、小室さんの引退があまりにショッキングだったので、短絡的に“週刊誌が追い込んだ”となってしまっているところがある」(前出・中村さん)
◆最後の逃げ場を残す 報じる側の矜持
フリーアナウンサーの高橋真麻は情報番組でこう問うた。
「『もう書かなくていいのに、かわいそうだよ』という感情がこんなに出たのは久しぶり。税金で暮らしているとかじゃないから、政治家の汚職ならちゃんと暴いてほしいけど、芸能人の不倫をここまで書いちゃってどうなのかな」
宮崎謙介元議員(37才)や山尾志桜里議員(43才)、今井議員など、人格まで含めて有権者から判断されるべき公職の政治家と、複雑な恋愛事情さえ、時に“芸の肥やし”になるようなアーティストを同列に並べて断罪することに疑問を投げかける声も多い。
もちろん、小室さんに厳しい意見もあり、テレビでは、「介護疲れをしてたら不倫していいとは絶対ならない」(ジャーナリスト・木村太郎さん)、「引退がすべてのけじめにならないと思う」(坂上忍)という声も上がった。
『週刊現代』元編集長の元木昌彦さんはこう言う。
「週刊誌は創刊以来、不倫を含む『スキャンダル』と『メディア批判』は大きな柱。けしからんという声は昔からあるが、そこは揺るがない。文春だって引退させたいと思っていたわけではないだろうし、多少の批判で撤退するほど週刊誌はやわじゃない。これだけ不倫報道が注目されるニュースならば、今後も情報が手に入れば不倫報道は続くだろう」
とはいえ、週刊誌のスキャンダル報道にも“一線”があるはずだ。介護で追い詰められた小室さんの精神状態は、行き場をなくし、引退に至った。人間臭いスキャンダルを追うからこそ、人間の気持ちを理解し、最後の逃げ場は残しておく──それも報じる側の矜持だ。
高橋みなみの次のコメントが多くの人の心情を代弁するのかもしれない。
「小室さんの会見を見てたら涙が出てきた。誰がこの会見を見て言葉を聞いて、責められるのだろうか。何が正義なのかわからない」
(女性セブン2018年2月8日号)