倉本聰 ドラマへの遺言
第13回
元嫁・浅丘ルリ子と
元カノ・加賀まりこが「全然平気よ」
碓井 先生から、初めて「やすらぎの郷」の企画についてうかがった時、石坂浩二さんが演じる主人公・菊村栄の履歴書も見せていただきました。そうしたら、基本的には倉本聰と重なっているんですよ。まんま倉本先生の履歴かと思った(笑い)。かなりご自身を投影させたのではないですか。
倉本 年齢は合わせましたが、それは僕を知っているからそう思うわけで。菊村には、阿久悠も入っていますよ。それに若干、久世光彦(TBS系「時間ですよ」などの演出家)も。同世代の複数の人間の要素によって形成されるわけで、菊村を僕だと思われると迷惑な話でね。女房も生きてますし、駆け出しの女優と浮気したなんて言われちゃうと困っちゃう。
碓井 なるほど。若い女優さんとの色恋沙汰は、久世さんと思えばいいのか(笑い)。
倉本 そうです。冗談じゃないですよね、どんな顔してカミさんに会えばいいのか。
碓井 石坂さんは「僕が演じる菊村栄は、倉本先生そのままだ」とおっしゃったとか。
倉本 それは違うんですね。そこがあいつの浅いところですね。
碓井 主演に石坂さんをキャスティングした決め手はなんだったんですか。
倉本 兵吉(石坂浩二の本名)の良さは品格があること。それから常識的な人間であること。今回、前もって浅丘ルリ子と加賀まりこと話していた時から兵吉の名前は出ましたよね。「あなたたち平気なの?」って聞いたら、「全然平気よ」って。じゃあ、気は合ってんだからっていうんで、あとはとんとん拍子に。
碓井 確か、倉本先生が書いた「2丁目3番地」(1971年、日本テレビ系)での共演がきっかけでしたよね。夫婦役が本物になって、その後、約30年も夫婦でした。結婚から46年、また離婚から17年の元夫婦が倉本ドラマで再び共演したわけで。カサブランカ(「やすらぎの郷」内にあるバー)でのスリーショットはドキドキというか、見ていておかしかったです。何しろ元ヨメ(浅丘)と元カノ(加賀)が両側にいるんですから。まさに虚実皮膜の面白さでした。
倉本 僕の身になってみれば、兵吉がルリ子にプロポーズした時に現場にいましたしね。お台場に移転する前の、河田町にあったフジテレビで兵吉から「一緒に行ってくれ」って言われて、僕の車で浅丘家に。おまけにフジの局舎前には感づいたマスコミが張っていたんで、裏口に回ろうって画策したりね。駐車場で大の大人たちがあれやこれやと。彼らはそんな経験も経ているんですよ。(つづく)
▽くらもと・そう 1935年1月1日、東京都生まれ。東大文学部卒業後、ニッポン放送を経て脚本家。77年北海道富良野市に移住。84年「富良野塾」を開設し、2010年の閉塾まで若手俳優と脚本家を養成。21年間続いたドラマ「北の国から」ほか多数のドラマおよび舞台の脚本を手がける。現在は、来年4月から1年間放送されるテレビ朝日開局60周年記念ドラマ「やすらぎの刻(とき)~道」を執筆中。
▽うすい・ひろよし 1955年、長野県生まれ。慶大法学部卒。81年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。現在、上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。笠智衆主演「波の盆」(83年)で倉本聰と出会い、35年にわたって師事している。
日刊ゲンダイ連載「倉本聰 ドラマへの遺言」
https://www.nikkan-gendai.com/articles/columns/3212