クイズ、アプリショック
問題をライブ配信
さて、問題です。日本人が大好きな娯楽で、テレビからスマートフォン(スマホ)に移りそうなものは何でしょう――。ファイナルアンサー? 正解はクイズ。今年に入り、問題を生配信するライブクイズのアプリが相次ぎ登場している。数十万円の賞金を山分けできることもあり、1日に1万人以上を集めるほどの人気に。広告も引き寄せるクイズアプリは、クイズ番組に代わるお茶の間の主役になろうとしている。
■賞金20万円を12人で山分け
夜の8時半、新宿駅南口に隣接する高層ビルの一室で、よく通る野太い声が響いた。「あなたは大金を手にすることはできるかな? LIVEトリビアの世界へようこそ」。緑色の幕の前で語りかけるのは、お笑い芸人の山田ルイ53世さんだ。
LIVEトリビアは、LINEが4月に始めたライブクイズ。クイズは全10問。「簡単だな、という人がいましたよ」「ルイめー、って私のせいではありません」。ルイ53世さんは、テレビの通販番組さながら参加者のコメントを読みあげたり、対話したりしながら司会する。この日参加した3500人のうち12人が全問正解し、賞金20万円を山分けした。
LINEは動画撮影用のスタジオを用意し、小規模だがテレビ局同様の機材をそろえる。レギュラーの司会者は、元TBSの安東弘樹さんや若手落語家の柳亭小痴楽さんら。参加者との対話を重視し「SNS(交流サイト)とテレビの良さを融合した新しいメディアを目指す」。LINEの浅野裕介エンターテイメント副事業部長は意気込みを語る。
司会者がリアルタイムで問題を読み上げるライブクイズの発祥は、「HQトリビア」という米国のアプリだ。米ツイッターが買収した動画サービス「Vine」の創業者が始めた。米国でも誰でも手軽に参加できて一獲千金が狙えるという目新しさで人気を集めた。クイズは毎日1~2回で、イベント時には25万ドル(約2700万円)と巨額の賞金が用意されることもあり、200万人超の参加者を集める。
■米国が発祥、LINEなど続々参入
日本でも今年に入り、LINEやニュース配信のGunosy(グノシー)などインターネット企業が相次ぎ参入。基本的なルールはHQトリビアと同じだ。ライブクイズに毎日参加するという神奈川県の男性会社員(34)は「リアルタイムで勝ち残っている人数が減っていく臨場感が魅力」と語る。
「スマホ利用者の隙間時間を埋めるには、テキスト(文字)だけでは不十分」。2月にライブクイズ「グノシーQ」を始めたグノシーの竹谷祐哉最高執行責任者(COO)は指摘する。動画アプリが次々と登場し、スマホで自分自身の動画を配信する若者も増えている。スマホのメディアは、テキストから動画中心の時代に急速に変わろうとしている。実際、グノシーQは1日あたり約1万5000人の参加者を集め、年内には「毎日10万人を集めたい」(竹谷COO)。
クイズは数多くの名番組を輩出してきたテレビのキラーコンテンツ。だが、ビデオリサーチ(東京・千代田)の調査によると、クイズ番組の1日あたりの平均放送時間は08年に141分だったが、15年には76分まで減少。足元は放送時間も増えているが、かつてのような勢いはない。
■テレビのクイズ番組は減少
特に視聴者参加型のクイズ番組が減っている。マスメディアに詳しい上智大学の碓井広義教授は「あらゆる雑学をネットで検索できるようになった結果、クイズが得意な人に憧れたり、感心したりする視聴者が減っている」と指摘。“1億総検索”の時代で、視聴者参加型クイズ番組の魅力が薄れているようだ。
若者を中心としたテレビ離れの影響もある。サイバーエージェントの調査では、10代後半でテレビ視聴が平日1時間以下かつ休日2時間以下という比率は48%と、15年調査から5ポイント上がった。
こうしたなか、ライブクイズが「クイズ好きである」(碓井教授)日本の消費者の受け皿になることで、「スマホ上にお茶の間を作り出す」(LINEの浅野氏)。ライブクイズに毎日参加する千葉県の20代主婦は「ひとりで参加するだけでなく、夫婦一緒にクイズに答える楽しさがある」。テレビをほとんど見ないため、クイズアプリが家族だんらんのツールとなっている。
家族全員でテレビの前に集い、クイズ番組を見ながら答えを当て合う。そんな失われつつある家族だんらんが、スマホで復活しそうだ。
ライブクイズを提供する各社は、広告収入に期待をかけている。広告の手法はこうだ。出題前に宣伝したい製品やサービスの動画を流す。クイズで、その動画にまつわる問題が出る。例えば「今日から始まった新キャンペーンは次のうちどれ?」という形で、動画を見ていれば簡単に正解できる。1問を確実に正解できるため、参加者はスキップせず真剣に動画を見る。それだけ高い広告効果が得られるというわけだ。
グノシーは数社の広告をクイズで試験配信しており、今夏にも広告販売を本格化する。広告料は数日間配信する場合で数百万円と、主力のニュースアプリの企画型広告と同等にする。
■根拠のないクイズは景表法に抵触
通常の賞金は10万~20万円が相場だが、イベント時には百万円の賞金が用意されることもある。さらにクイズの正解者が誰もいない場合は、賞金を次回に持ち越し(キャリーオーバー)となるライブクイズも多い。
多額の賞金は利用者にとって魅力だが、法律上の問題はないのか。製品やサービスの誘客の手段として金銭など経済上の利益を提供するときには、景品表示法(景表法)の規制を考慮する必要がある。
景表法の対象となれば賞金は10万円までといった規制がかかる。各社はアプリは無償で参加費もかからないため「景表法の対象とならない」と説明。消費者庁は「商品やサービスを購入するための出費を伴わず、誰でも参加できる場合は(賞金上限の規制がない)オープン懸賞となる」(表示対策課)と指摘する。クイズ中に広告を入れた場合も、製品を購入しないと解答が不利になるといったことがない限り、規制の対象にならないという。
景品表示法は、消費者を誤認させる不当な情報提供を禁止している。「表示違反に対する取り締まりも強化されている。取引につながる情報については、消費者を誤認させない注意が必要だろう」と森・濱田松本法律事務所の松田知丈弁護士は指摘する。例えば、クイズで根拠もなしに「世界でもっとも汚れが落ちる洗剤はどれ」といった誤解をまねく表現をしていた場合は景表法に触れる可能性がある。(松元英樹)
(日経流通新聞 2018.06.03)