週刊新潮に、以下の書評を寄稿しました。
長坂信人
『素人力~エンタメビジネスのトリック!?』
光文社新書 842円
オフィスクレッシェンドという社名は知らなくても、この制作会社が手がけてきた『20世紀少年』(堤幸彦監督)、『TRICK』(同)、『モテキ』(大根仁監督)、『JIN-仁-』(平川雄一朗監督)といった映画やドラマのヒット作を見た人は多いのではないか。
同社を率いる長坂信人は、秋元康氏との縁で「素人プロデューサーを経て素人社長となった」と言うが、それだけで24年も会社経営ができるはずもない。初の著書『素人力 エンタメビジネスのトリック?!』は、いわば「プロの素人」が悪戦苦闘しながら見つけた仕事術や、先輩・恩師から学んだことを伝える一冊だ。
仕事の上では「偶然は必然」と信じ、運を見逃さないためにアンテナを立て、出会った人を大事にする。しかも「最後まで人の話を聞く姿勢」を忘れない。本気の相槌とリアクションを武器に、自己主張の権化たる監督たちとも臆することなく渡り合ってきた。
また力説するのが代案の大切さだ。何かを提案し、否定されたときに「それなら、こちらはどうですか」と即座に出せること。そんな「代案力」を培うのはひとえに経験だと言い切る。経験を伴った知識は強く、知識の集積が知恵を生む。この知恵こそがアイデアであり、代案の源泉なのだ。さらに知恵を発揮するためには「妄想」や「想像」という名の燃料も必要だと。
本書の随所に登場する普遍的な「ものの見方」は、エンタメ業界を超えた多くのヒントを含んでいる。
佐藤 優 『十五の夏』上・下
幻冬舎 各1944円
五木寛之の小説『青年は荒野をめざす』が出版されたのは1971年。その4年後、佐藤優という15歳の少年がソ連・東欧をめざして旅に出た。虚心のままに出会う街と人が若き知性と感性を刺激していく。すぐれた旅の文学であり、また同時代ドキュメントでもある。
真保裕一 『オリンピックへ行こう!』
講談社 1620円
オリンピックはアスリートたちの夢の大舞台だ。明城大学卓球部の成元雄貴もまた野心に燃えている。わずか3メートル先に立つ相手との死闘。瞬時に放たれる1打に込めた意思と意味。卓球の他に競歩とブラインドサッカーの奥深さも堪能できるスポーツ小説集だ。
清水義範 『定年後に夫婦仲良く暮すコツ』
ベスト新書 864円
「妻とのふたり暮らし」の先達に学ぶ、ストレスの少ない定年後ライフだ。何より建前や無理なことは書かれていないのが有難い。孤独な夫婦であることを喜び、日常をちょっとだけ行動的にしてみるのがコツだ。妻がご機嫌でいることが自分の幸福につながると知る。
(週刊新潮 2018年5月31日号)