放送文化基金賞受賞の『アンナチュラル』。
プロデューサーが振り返って語ってくれたこと
今年の1月から3月まで放送された、金曜ドラマ『アンナチュラル』(TBS系)。これまでに、数々の賞を受賞しました。
私も審査員を務めさせていただいている、第11回「コンフィデンスアワード・ドラマ賞 2018」では、作品賞、主演女優賞(石原さとみ)、助演男優賞(井浦新)、 脚本賞(野木亜紀子)。
第21回「日刊スポーツドラマグランプリ」で主演女優賞、第96回「ザテレビジョンドラマアカデミー賞」の最優秀作品賞や主演女優賞なども獲得しています。
そして先日は、第44回「放送文化基金賞」のテレビドラマ番組最優秀賞、そして脚本賞にも輝きました。
「TBSレビュー」(2018.05.27放送)で、このドラマを制作したドリマックス・テレビジョンの新井順子プロデューサーに、お話をうかがうことができましたので、一部ですが採録してみます。
碓井 『アンナチュラル』には、医学や法医学関係の専門的な用語や事象が頻繁に出てきました。見る側は、それがよくわからないとついていけないし、あまり説明されると今度はうるさいと感じてしまいます。このあたりが、「わかったような気になる」という、いいバランスで作られていました。プロデューサーとして中身を練っていく際、苦労されたんじゃないかと思うんですが。
新井 脚本の野木亜希子さんは、医学書などを読んだり、取材もされたりして、かなり知識が豊富になっていらっしゃいました。逆に私は、わざと文献などを読まないようにしたんです。台本を読んだとき、私が「どういう意味か、わからない」と思ったら、多分視聴者もそう思うだろうと。ですから、(ヒロインたちの)医学的に高度な内容の会話を、よりわかりやすくしゃべらせてくださいとお願いし続けましたね。「これくらいでわかるでしょう」「いえ、わからないです」というやり取りをして、難しい言い回しをなるべく簡単にしてもらいました。
碓井 このドラマは、ジャンルで言えばサスペンス物と呼ばれるかと思うんですが、事件があって、犯人がいて、追いかけて、捕まえたという一般的な流れとは違っていました。サスペンスとヒューマン、その2つの要素のバランスが絶妙で、人間の性(さが)とか業(ごう)といったものまで、すくい取っていたんですよね。そう聞けば「重たいドラマか」と思われそうなんですが、すごく軽快でテンポがいい。またテンポがいいのに、急ぎ過ぎてはいない。実に見事でしたが、演出の塚原あゆ子さんの功績も大きかったんじゃないでしょうか。
新井 大きいと思います。原作のないオリジナル作品でしたから、どういうキャラクターにしたらいいのか、なかなか掴めなくて。何度もホン(台本)読みをしながら、どの位のテンションでやればいいのか、みんな迷ったりしました。そんな中で塚原さんが「こっちです!」と誘導してくれたり、「もっとハネてください」などと修正してくれました。
碓井 なるほど。
新井 脚本が良くても演出でダメになることがあるし、その逆もあります。なかなかバランスが難しいんですが、今回は放送前に全部撮り上がっていたこともあって。いいとか悪いとか、いろんな情報が入ってこないまま、信じた道をひたすら突き進むしかないという状況でした。そのおかげでブレずに、とにかくゴールに向かって進んでいけたことは良かったのかな、という気がしています。
碓井 ドラマは脚本、役者、演出の三位一体で作られますが、『アンナチュラル』では、そのどれもがレベルを超えていたと思います。オーバーに言えば、「ドラマってここまで表現できるんだよ」ってことを示してくださった。しかもオリジナル作品です。物語も人物像も、ゼロから作られていました。いわばこのドラマだけの楽しみを提供していたわけで、「ドラマ、まだまだいいぜ!」っていう有り難さがありました。私も含め、続編が見たと思っている視聴者の皆さんも多いはずので、すぐに連ドラとは言いませんが、「スペシャルでいいのでぜひ!」とお願いしておきたいですね。
新井 はい。急いでネタを集めないと(笑)。
どんな形の続編になるのかはともかく、いずれまたミコトや中堂に会えるかもしれません。それまで楽しみに待ちたいと思います。