TBSドラマ「この世界の片隅に」
エンドロールでアニメ映画への「敬意」
製作委「関知せず」で物議
表現を無断利用なら著作権侵害も
TBSで放映中のドラマ「この世界の片隅に」が、エンドロールで同名のアニメ映画に対して「special thanks to 映画『この世界の片隅に』製作委員会」と表示したことが物議を醸している。ドラマの視聴者から、アニメ映画との類似性を指摘する声が上がる中、同製作委員会が「一切関知していない」とするコメントを発表したためだ。放映開始後に著作物との類似性を指摘され、放映停止に追い込まれたネット配信のドラマもあり、ファンは気をもんでいる。(片山夏子)
ドラマもアニメ映画も、漫画家こうの史代さんの同名の漫画が原作。終戦前、軍港の街・広島県呉市に嫁いだ主人公すずが、空襲や物資不足に苦しみながらも、前向きに生きる姿が描かれている。二〇一六年、アニメ映画が大ヒットし、現在も異例のロングラン上映が続く。一方、TBSは今月から実写ドラマをスタート。二話が放映済みだ。
ドラマは現代の関係者が登場するなど、原作にない独自シーンがあるが、視聴者からは「なんでアニメ版のロケハンと全く同じ場所の同じ景色を、同じ角度で何カットも撮影したの?偶然?」「原作よりアニメに構図や衣装の色彩とかを依存してる」など、類似を指摘する声が相次いでいた。
こうした中、映画の製作委員会は二十四日、公式ホームページでTBSドラマのエンドロールの表記に触れ「当委員会は当該ドラマの内容・表現等につき、映画に関する設定の提供を含め、一切関知しておりません」と記載した。
これに対し、TBS広報部は「エンドロールは、先行して公開されたアニメ映画への敬意を表明したもの。ドラマは原作を実写化したもので、外部の時代考証専門家の指導の下に独自に制作した」と回答。エンドロールの表示は、今後も変更しないという。
そもそも「special thanks」とは何か。テレビ業界に詳しい上智大の碓井広義教授(メディア文化論)は「一般的に、製作で協力してくれた人や組織に『お世話になりました』という意味」と説明し、「単に尊敬の念で入れたというのは違和感がある」と話す。そのうえで「わざわざ入れているので、協力や提携関係があったり、映画製作側から応援を得ていたりなど、いろいろな意味に取れる。視聴者がアニメ映画と似た表現を使う許可を得たと誤解する可能性があるし、許可を得ていないのなら、『無断でまねたことの免罪符として入れた』と見なされる可能性もある。もっときちんと説明すべきだ」と語る。
もし、無断でアニメ映画の表現を利用していた場合はどうか。知的財産侵害事件に詳しい冨宅恵(ふけめぐむ)弁護士は著作権侵害になる可能性を指摘する。その場合、「原作漫画にないシーンがあるかどうかが一つのポイント」と説き、「漫画をアニメ映画にするなど原作の表現形態を変え、創作性を加えた二次的な作品を翻案という。今回、ドラマがアニメ映画に許可なく依拠した箇所があれば、著作権を構成する複製権や翻案権の侵害になる可能性がある」と指摘。同一表現でなくても「ドラマのシーンから、映画独自のシーンを視聴者が想起できた場合は、侵害の可能性がある」と話す。
類似ケースとして、昨年十二月に配信が始まったネットドラマ「チェイス」がある。清水潔氏のノンフィクション「殺人犯はそこにいる」と多くの類似点があると指摘され、現在、配信は停止されている。
ドラマ「この世界」について、冨宅氏は「『special』の表示は映画を参考にしているとしか取れない」と話す。ただ著作権侵害かどうかは「実際に作品をシーンごとに比較してみないと何とも言えない」と話している。
(東京新聞 2018.07.28)