週刊新潮に、以下の書評を寄稿しました。
合田道人
『詞と曲に隠された物語 昭和歌謡の謎』
祥伝社新書 929円
昔から「歌は3分間のドラマ」といわれる。一曲の中に小説や映画に匹敵する物語が描かれているからだ。合田道人『詞と曲に隠された物語 昭和歌謡の謎』を読むと、歌の成り立ちや背後にもまたもうひとつの「ドラマ=物語」が存在していることがわかる。
本書には並木路子『リンゴの唄』(昭和20年)から、石川さゆり『天城越え』(61年)まで19曲の昭和歌謡が並ぶ。その中で物語として最も興味深いのが、ちあきなおみ『喝采』(47年)だ。
彼女がまだキャバレー回りをしていた時代、“お兄ちゃん”と呼んで慕っていた青年の訃報を受け取ったことがあった。発売当時、レコード会社はこの曲の私小説的な売り方を目論んでおり、ちあきはそれに強く抵抗したというのだ。
そんな『喝采』から約20年後、ちあきは夫で俳優の郷えい治(ごうえいじ)を失う。衝撃的な2度目の「黒いふちどり」であり、彼女はそのまま歌手活動を止めてしまった。曲も歌い手も、いまや歌謡界の伝説となっている。
他にも『帰って来たヨッパライ』(42年)のヒット、『イムジン河』発売自粛、そして『悲しくてやりきれない』と続くザ・フォーク・クルセダーズの怒濤の1年。山口百恵『美・サイレント』(54年)での伏字の内幕など、人に教えたくなるエピソードばかりだ。
かつて岩崎良美と同時期にデビューした歌手であり、その後は豊富な音楽知識を生かしたプロデューサーとして活躍する著者ならではの一冊である。
(週刊新潮 2018年7月26日号)