週刊新潮に、以下の書評を寄稿しました。
上原 隆 『君たちはどう生きるかの哲学』
幻冬舎新書 842円
『友がみな我よりえらく見える日は』などで知られる著者が解読する、吉野源三郎の『君たちはどう生きるか』。この本を優れた哲学書として読むために、著者は哲学者・鶴見俊輔を梃子としている。「自分を相対化して考える」ことをコペル君と共に学び直す。
アダム・シズマン:著、
加賀山卓朗・鈴木和博:訳
『ジョン・ル・カレ伝』上・下
早川書房 3240円
スパイ小説の巨匠の本名がデイヴィッド・コーンウェルであることを本書で初めて知る。詐欺師だった父との確執。苦学生から英国情報部員への転身。『寒い国から帰ってきたスパイ』などの登場人物たちのモデル。さらに不倫や離婚までをも描いた決定版伝記だ。
園 子温 『獣でなぜ悪い』
文藝春秋 1296円
『紀子の食卓』で出会った素人同然の吉高由里子。『愛のむきだし』で才能にギアが入った満島ひかり。彼女たちは園子温作品を通じて自由を手にしていく。「違和感」を武器に、映画界のみならず社会に対しても自由のための戦いを挑む映画監督の「自由論」である。
(週刊新潮 2018年8月2日号)
永田和宏 『知の体力』
新潮新書 821円
歌人で細胞生物学者の著者による“知の指南書”だ。自分が知っていることは世界の一部に過ぎないと知る。それは自分という存在の相対化だ。学問や読書の意味はそこにある。さらに大学は会社でも職業訓練所でもないと説く。言葉こそ思考の足場だと再認識する一冊。
鵜飼哲夫 『三つの空白 太宰治の誕生』
白水社 3240円
今年6月に没後70年を迎えた太宰治。その生涯で作品を書かない空白期間が3回あったという。旧制弘前高等学校時代、東京帝大時代、そして石原美知子との結婚前。いずれも「死」や「別れ」と遭遇した苦しい時だ。これまでにない新たな角度から太宰の軌跡を解読する。
(週刊新潮 2018年7月26日号)