「死」を自己決定するために見つめ直したい「生」
松田 純
『安楽死・尊厳死の現在
~最終段階の医療と自己決定』
中公新書 929円
どうしたら「安らかな老後」を過ごせるか。それは切実な課題だが、健康と年金にだけ気を配ればいいとは思えない。その先にある死についても、目をそらさず考える必要があるのではないか。松田純『安楽死・尊厳死の現在 最終段階の医療と自己決定』が参考になるのは、イメージに過ぎなかった安楽死の実相が見えてくるからだ。
著者はまず先進国の事例を示していく。世界で初めて安楽死を合法化したオランダ。各州で広がりを見せるアメリカ。また法制化はせずに自殺介助を容認しているスイスなどだ。様々な議論も含め、そこに至る過程を明らかにしながら、対象の拡大や認知症をめぐる問題も指摘する。
そして日本では「安楽死」と区別して、生命維持装置を止めることを「尊厳死」としている。だが世界的には安楽死や自殺介助も尊厳死と呼ぶそうだ。現在、「尊厳死法案」が用意されているが、”死の医療化”ともいうべきその運用にはいくつもの難問が存在すると著者は言う。
自分の身体を処分する権利は自分にあるとする「自己決定権」。それを根拠とした安楽死の肯定もしくは正当化が現代安楽死論の基本だ。だが、そこには自発的ではない安楽死の強制という危うさも潜んでいる。
また自己決定の判断をするためには「自律」が鍵となる。つまり、ある種の「健康」が必要なのだ。本書を読みながら、死よりもむしろ生について考え始めている自分に気づく。
(週刊新潮 2019.02.07号)