<週刊テレビ評>
家売るオンナの逆襲
課題見つけ「生き方」提案
決めゼリフ「私に売れない家はありません!」も変わっていない。一度は地方で小さな不動産屋を開いていたヒロイン、三軒家万智(北川景子)が夫となった屋代課長(仲村トオル)を従えて、古巣のテーコー不動産新宿営業所に帰って来た。まさに「家売るオンナの逆襲」(日本テレビ系)である。
今クールでも、「それが私の仕事ですから!」と難しい物件を売りまくっている万智。その驚異的な実績の秘密はどこにあるのか。たとえば、夫の定年退職を機に、住み替えを計画している熟年夫婦がいた。しかし、長年の専業主婦暮らしにうんざりし、離婚したいとさえ思っている妻(岡江久美子)が、どんな物件にも難癖をつけるため、なかなか決まらない。
万智は、この夫婦の自宅を訪問した際に、妻が発揮している生活の知恵と合理的精神に着目する。その上で、妻自身の「自活」に対する甘い認識を指摘し、夫に対する不満の解決策を提示。それによって夫婦は墓地に隣接する一軒家を購入し、今後も2人で暮らすことで一件落着する。
またトランスジェンダーの夫を持つキャリアウーマン(佐藤仁美)も登場した。彼女は夫の気持ちを頭で理解しながらも、感情的にはかなり複雑な思いをしている。万智は、娘を含む家族3人が互いに自分を押し殺すことなく住める家を探してきた。
そして1人暮らしの口うるさい女性客(泉ピン子)。万智は彼女が胸の内に隠していた「孤独死」への不安を察知する。しかも、それを解消すると同時に、彼女が愛用してきた閉鎖寸前のネットカフェを守り、それぞれに事情のある利用客たちも救ってしまった。
こうした万智の仕事ぶりを見ていると、単に家を売っているのではないことに気づく。顧客たちが、どんなことで悩んでいるのか。何に困っているのか。彼らが個々に抱えている問題を発見し、それを解決しているのだ。そのためには徹底的なリサーチを行う。時には探偵まがいの行動にも出る。相手を観察し、課題を見つけ、情報を集めて分析し、顧客に合った解決法を見つけるのだ。これを単独で行っている三軒家万智、やはり天才的不動産屋かもしれない。
しかも万智が見抜くのは顧客自身も気づいていない問題点や課題だ。家はその解決に寄与するツール(道具)に過ぎない。つまり万智は新しい家を提案するのではなく、家を通じて新たな「生き方」を提案しているのだ。このドラマの醍醐味(だいごみ)はヒロインによる問題発見・解決のプロセスにある。脚本は大石静のオリジナル。北川景子の代表作になりそうな勢いだ。
(毎日新聞 2019.02.23 東京夕刊)