NGT騒動収束せず
「アイドルビジネスの終わりの始まり」
報告書を徹底分析
新潟県のアイドルの身にふりかかった暴行事件が、混乱と不信を生み出している。NGT48メンバーの山口真帆さんが顔をつかむなどの暴行を受けたとされる事件は、3月22日に新潟市内で行われたNGT、AKB48などを運営する会社・AKSによる記者会見でさらなる泥沼化へ。
NGTが出演中の地元ラジオ局の番組やメンバーのトークショーなどのイベントが休止や中止に追い込まれた。ここまで問題が大きくなると、簡単には収まりそうにない。(本誌/上田耕司)
上智大学文学部新聞学科の碓井広義教授(メディア文化論)はこう話した。
「この事件は、秋元康さんが生み出してきたアイドルビジネスの終わりの始まりだと思うんですよ。秋元さんは沈黙していますが、AKBグループをプロデュースする総帥としての見解を示すべきではないか。そうしないと、多分、ファンの人も含め、誰も納得しないのではないでしょうか」
これまでも、AKBグループの握手会などでトラブルは起きていた。
「会いに行けるアイドルだとかファンの人たちとの距離が近いことを売りにしてやってきた中で、傷害事件にまで発展したこととか、表面化しなかったものも含めると、諸々あったんです。その頃は、秋元さんが発言して、カバーするということをきちんとやっていたと思うんです」(碓井教授)
会見には、AKSの運営側の松村匠取締役ら3人が出席。 会見と同時進行で山口さんがツイッターで生反撃し、AKSの松村匠取締役は答えを訂正する場面もあった。
「会見に支配人や取締役が出てきても、誰も納得しない状況ですよね。運営側はあくまでも、NGTのダメージを最小限に抑えて、早めにこの騒動を収束させたいのでしょう。そのための第三者委員会の報告発表だった印象です。被害者である山口さんをケアしていくというよりも、ビジネスを優先させているという判断を感じさせました。それに対して、山口さんがたった1人で戦っているという図式だと思います」(同)
山口さんは「なんで嘘ばっかりつくのでしょうか」とツイッターした。
「まさにSNS時代を目の当たりにした思いでした」(同)
AKB48は秋元康氏のプロデュースにより、14年前に創ったのが始まり。その後、名古屋のSKE48、大阪のNMB48、福岡のHKT48、新潟のNGT48などが次々と創られていった。
「これだけ戦線を拡大する中で、新潟という手薄になっているところで事件が起きたという気がします。それで、アイドルビジネスが壊れ始めた。アイドルたちの中には、親元を離れて暮らしている人もたくさんいると思います。運営はもっときちんとケアし、配慮しながら進めていくべきだったところが、抜け落ちていた部分がたくさんあったんだろうと思います。それが露呈した事件でした」(同)
AKBビジネスとして考えた場合はどうか。碓井教授はこういう。
「AKBグループとは違うチャンネルとして、乃木坂46系がある。AKBグループはビジネスとして下り坂に入っているんですよ」
乃木坂46は人気を集め、昨年は「シンクロニシティ」で日本レコード大賞を受賞した。
「乃木坂は今がピーク。そんな中でAKBグループの扱いがぞんざいになっていたのではないか。状況が良くなっていく要素があまり見えない。ビジネスの仕組み、運営のやり方の弱い部分とかの欠陥が目立つようになった」(同)
AKBの総選挙も中止が発表された。
「もし、総選挙が行われていら、山口さんが上位になるでしょう。新潟の運営に対するブーイングも含めた票になるから。そういう意味でも、開催できないのではないでしょうか」
第三者委員会の報告書によると、「多くのメンバーが、メンバー内にファンと私的領域での接触を行っていた者がいると認識していたのも事実です」「本事件後に、数名のメンバーがファンとの『つながり』があったとして自ら申告していること」「36名のメンバーから、他のメンバーとファンとの『つながり』に関する供述があった。その際、12名のメンバーの名前が具体的に上がった」とある。
芸能ジャーナリストの佐々木博之氏はこう考える。
「今は、ファンがアイドルに電話やLINEの連絡先を割と簡単に渡すことができて、アイドル側がその気になればいつでもつながれる、接触できるという状態になってしまいました。そのファンと仲良くなれば、CDやグッズを沢山購入してもらうことができるかもしれません。総選挙になれば、投票券付きのCDを大量購入してもらい、グループ内でのポジションだって上がります。場合によっては、センターだって取れるかもしれません。そういうファンは彼女たちにとっていわゆる“太客”です。キャバクラの女の子たちが売り上げを伸ばそうとするのと同じ発想で、“太客”が離れないように、好きでなくてもいい顔して、要求をのんでしまうこともあるのでは。運営側がグループ内の競争を煽り、人気争いが激化すれば、お金を使ってくれるそういうファンを多くつかまえたいという心理になっても不思議じゃないです。“AKB商法”と“AKBシステム”自体がほころび始めているんじゃないでしょうか」
今後についてはこういう。
「第三者委員会でも何でもいいんですけど、徹底的に調べて、ファンと私的交流を持っていたメンバーは解雇すればいいんですよ。アイドルとしての自覚も徹底させなければいけないと思います。そうすれば示しもつく。それをやらないのは、何かあるのかなと勘ぐってしまいます。犯人が釈放されたのも不思議ですし。深い闇を感じますね。これで、山口さんが脱退しなくちゃいけなくなるとしたら、理不尽極まりない。AKSの松村取締役と彼女と秋元さんの3人で記者会見を開いて納得できる説明をしてもらいたい。そうすればファンの理解を得られるのではないでしょうか」(佐々木氏)
山口さんとNGTの前途について、碓井教授はこう見る。
「NGTは解散することだってあり得る。やっていけなくなる可能性もあります。山口さんは、いつ辞めると言い出すのか、ファンも心配してると思うけど、メンバーたちの中に疑惑の人たちもいるのに、復帰して今まで通り、ステージに立てるものなのか。会見中にツイッターで反撃したのは、納得できていないからなわけで、彼女自身の中でのある種の納得がなければ進むことも引くこともできないでしょう。何を信じていいかわからない状況だから。彼女だって、辞めるなら納得して辞めたいでしょうしね」(碓井教授)
山口さんは“卒業”という名目で、脱退させられるのか。復帰への道があるのか。類似のアイドルグループも増えた。事件の解決が与える影響は大きい。
(週刊朝日オンライン 2019.03.27)