【書評】 『ドラマへの遺言』 倉本聰、碓井広義著
プロ意識と愛情に満ちあふれ
手元に一冊のパンフレットがある。倉本聰(そう)が主宰していた富良野塾の舞台「今日、悲別(かなしべつ)で」。足を運んだのは30年近く昔の大学生時代だ。中に書かれた倉本から「ある役者への手紙」-。Aクンに「成長を示してくれなかった」とキャストから外した理由を挙げ、「大切なのは現在のレベルでなく、今どの位の上昇率を持っているか」だと語りかける。愛情に裏打ちされた厳しさに、舞台あいさつに立つ倉本をカッコいいと思った。
4月8日スタートのドラマ「やすらぎの刻(とき)~道」(テレビ朝日系)で倉本は既に1年分、235話の脚本を書き上げているという。80代半ばのいまなお“上昇率”を持つ脚本家だといえる。
その倉本と、番組制作会社プロデューサー時代の36年前に出会い、勝手に「師匠と仰いで」いる上智大教授の碓井広義が“遺言”をテーマに倉本から延べ30時間聞き取ってまとめたのが本書だ。
NHK大河ドラマ「勝海舟」(昭和49年)で倉本が意見の相違から途中降板したことは有名な話だが、その前からNHKのドラマを何本か手掛ける中で〈NHKのやつって慇懃(いんぎん)無礼なんですよ。言葉は丁寧だけどいやらしいっていう〉。下地はあったのだ。
降板を機に北海道へ移住。56年から約20年にわたり放送された「北の国から」(フジテレビ系)の誕生につながるが、原点はその前のドラマで出会った北島三郎だという。人気を探ろうと〈サブちゃんに頼んで付き人をやらせてもらいました。マジで〉。その公演先で観客と〈人間対人間〉で触れ合う北島に、〈地べたに座らなきゃ駄目だと分かった。あれがなかったら、『北の国から』は成立していない〉。
倉本ドラマに出演した俳優陣への衝撃発言も飛び出す。寺尾聰(あきら)の演技に〈本当の意味を読み取ってないんでしょうね〉と容赦なく、ビートたけしに至っては〈全く認めないんですよね〉と切り捨てる。
視聴率への疑問、テレビ業界への不満、役者とタレントの違い…。60年余の“ドラマ渡世”を振り返る倉本の一言一言は時に辛辣(しんらつ)だが、プロ意識とドラマ愛に満ちている。(新潮新書・820円+税)
評・大塚創造(文化部編集委員)
(産経新聞 2019.03.31)
ドラマへの遺言 (新潮新書) 倉本聰、碓井広義 新潮社
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