週刊新潮に、以下の書評を寄稿しました。
佐川光晴
『駒音高く』
実業之日本社 1836円
将棋の世界を描く連作短編集だ。プロになるには出遅れた、アマチュア初段の小学5年生。女流棋士ではなく、女性棋士を目指す小学6年生の娘を持つ母。そこには将棋だけが与えてくれる喜びと涙がある。将棋会館で働く女性清掃員が出会った中学生はやがて……。
稲泉 連
『こんな家に住んできた~17人の越境者たち』
文藝春秋 1728円
住居をめぐるインタビュー集だが、「越境者」という括りが特色だ。東京・大井町の雀荘で生まれ育ったミュージシャン、高中正義。ソ連邦の崩壊を目撃したキャスター、金平茂紀。中でも作家の東山彰良が語る台湾と祖父の話は、小説『流』を思わせて興味深い。
風カオル
『漫画ひりひり』
小学館 1512円
平成元年の大分。元野球部の細川歩は専門学校に入学して漫画家を目指す。憧れの手塚治虫のようには描けない日々。尊敬できる師との出会いと別れ。漫画との孤独な戦い。そして30年後。かつて漫画家志望だったという著者の体験と思いが投入された青春群像小説だ。
(週刊新潮 2019年4月4日号)
五木寛之
『作家のおしごと』
東京堂出版 1728円
半世紀を越える作家活動を、著者自身が楽しみながら振り返った一冊だ。回想的エッセイ、ライブ・トーク、さらに歌詞までも収録。作家にとってすべてが表現だという持論もうなずける。また、36年前に行われた村上春樹との対談は両者の個性が際立ってスリリングだ。
安野光雅
『安野光雅 自分の眼で見て、考える』
平凡社 1296円
語りおろし自伝シリーズの最新刊。今年93歳となる著者が、生い立ち、20歳前の徴兵、絵描きになるまで、そして大好きな画業や旅について語っている。モットーは「雲中一雁(うんちゅういちがん)」。群れから離れても一羽で飛ぶ覚悟であり、それは著者の独創性にもつながっている。
(週刊新潮 2019年3月28日号)
駒音高く 佐川 光晴 実業之日本社
こんな家に住んできた 17人の越境者たち 稲泉 連 文藝春秋
漫画ひりひり 風 カオル 小学館
作家のおしごと 五木 寛之 東京堂出版
安野光雅 自分の眼で見て、考える (KOKORO BOOKLET―のこす言葉) 安野 光雅 平凡社