週刊新潮に、以下の書評を寄稿しました。
シン・ゴジラの乱杭歯の秘密とは?
倉谷滋『怪獣生物学入門』
インターナショナル新書/968円
1960年代は「怪獣」の全盛期だ。東宝の『ゴジラ』シリーズが毎年のように公開され、テレビの『ウルトラQ』や『ウルトラマン』が人気を集めていた。
当時、怪獣に関する知識を提供してくれたのが「怪獣博士」こと大伴昌司だ。雑誌に掲載された「怪獣図解」は、怪獣たちの身長や体重といったデータから体内の構造までを明らかにする画期的なものだった。大伴の解説が持つ独特の世界観とリアリティが怪獣ファンを魅了したのだ。
そんな「大伴の生徒たち」にとって、倉谷滋『怪獣生物学入門』は手に取らずにいられない一冊だ。とはいえ、そこには一種の警戒感もある。「形態進化生物学者」の著者によって、怪獣がアカデミズムの立場から検証され、存在自体を否定されたら辛い。怪獣がフィクションであることを承知で楽しんでいるからだ。
しかし、それは杞憂だった。本書は、「もしそれが本当に起こったなら」を前提に、科学的事実や法則という側面から怪獣を捉え直す試みである。
もともとゴジラはどこに棲んでいたのか。宇宙怪獣キングギドラはなぜ地球の脊椎動物と類縁性を持つのか。マタンゴになることは感染なのか。「ウルトラ怪獣」のジラースが持つエリマキの構造と機能とは。さらに、『シン・ゴジラ』のゴジラが見せた乱杭歯(らんぐいば)は何を意味するのか。
こうした設問に答えていく著者の筆致は喜びに満ちている。科学者であると同時に、年季の入った無類の怪獣好きでもあったのだ。
(週刊新潮 2019.11.14号)