<週刊テレビ評>
今期冬ドラを振り返る
圧巻の吸引力「テセウスの船」
最終回が放送された今期の冬ドラマのベスト3を紹介したい。
原作とは異なる「共犯者」を明かして最終回を盛り上げたミステリー「テセウスの船」(TBS系)。まさか父親の介護をしていた目立たない青年、田中正志(せいや)だったとは。意外性では驚かされたが、登場人物としての存在感が希薄で小物だったため、中には拍子抜けした人もいたのではないか。無理に原作と差別化を図る必要があったか、少々疑問が残る。
柴崎楓雅が好演した主犯の少年、加藤みきおを手助けしたのは、30年後の本人(安藤政信)だったというのが原作だ。そのアイデアは、タイムスリップという設定を生かす意味でもインパクトがあっただけに残念。とはいえ、謎の引っ張り方が巧みで、今期ドラマの中で視聴者に「次を見たい」と思わせる吸引力ではトップだった。
また、回を重ねるごとにSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などで話題が広がったのが「恋はつづくよどこまでも」(TBS系)だ。下手なラブコメは見る側を白けさせるが、このドラマは主人公の新人看護師を多くの人が応援したくなった。
そうさせたのはヒロイン、佐倉七瀬(上白石萌音)の愛すべきキャラクターだ。仕事も恋も初心者で、うっとうしいくらい一生懸命。看護師として一人前になること、5年越しの片思いの相手の天堂(佐藤健)に振り向いてもらうこと、そのためにどんな努力も惜しまない。
失敗しては落ち込んで泣く素朴女子。だが、あきらめずに前を向く強さも持っている。そんな七瀬の天性の明るさと笑顔が、新型コロナウイルス禍で疲れていた私たちも元気づけてくれた。加えて、めったに笑顔を見せない医師を演じた佐藤も魅力的だった。見る側が気持ちよく没入できるファンタジーとして、照れることなくラブコメ道を貫いた制作陣に拍手だ。
そしてもう1本、吉高由里子主演「知らなくていいコト」(日本テレビ系)も忘れられない。週刊誌記者の真壁ケイトが主人公の「お仕事ドラマ」だ。元カレで妻子あるカメラマン、尾高(柄本佑)との恋愛も気をもませたが、週刊イーストが放つ、文春砲ならぬイースト砲から目が離せなかった。
大学と文部科学省の贈収賄疑惑、人気プロ棋士の不倫疑惑、テレビ局のやらせ疑惑にも肉薄するなど、毎回ケイトたちの取材過程が見せ場だ。複数のメンバーでの各所の張り込み、スマートフォンを駆使した動画撮影、そして当事者への直接取材。現実そのままではないにしろ、プロらしい連携プレーはリアルに見えた。まさにドラマならではの臨場感であり快感だ。
(毎日新聞「週刊テレビ評」2020.3.28)