衰退する地上波ドラマと
Netflix等ネットドラマの根本的な違い
2兆1048億円と1兆8612億円。これは、3月に発表された2019年のネット広告費とテレビメディア広告費の数字だ。長らく「娯楽の王様」として君臨してきたテレビが、「広告収入」という目に見える数字によって、その座から引きずり下ろされる結果となっている。奇しくも時を同じくして、テレビが生んだ天才コメディアンの志村けんさん(享年70)がこの世を去った。1人1台スマホを持つ時代、有名芸能人がYouTubeに進出してゆくいま、テレビの未来は、どうなるのか?
地上波テレビの衰退とともに台頭したのが「Netflix」「アマゾンプライム」「Hulu」といった定額制の動画配信サービスだ。
なかでもNetflixは、日本だけでも300万人が視聴するといわれ、“AVの帝王”と呼ばれた村西とおるを山田孝之が熱演した『全裸監督』や写真家の蜷川実花さんが初めて手がけた連続ドラマ『フォロワーズ』といったオリジナルドラマが大ヒットし、今年いっぱいで活動休止する嵐のドキュメンタリー配信も話題を集めた。
なぜ躍進が続くのか。まず指摘できるのは「予算」の大きさだ。
Netflixには会員から1人あたり800~1800円がひと月ごとに入ってくる。しかも会員は現在、世界に1億5000万人以上おり、その数は増え続けている。
メディア文化評論家の碓井広義さんはこう指摘する。
「地上波テレビとは圧倒的に予算規模が違います。一説によると、通常のテレビドラマの予算は1本2200万円ほどですが、『全裸監督』は3倍の7000万円だったとか。お金をたっぷりかけて制作できるのがNetflixの強みです」(碓井さん)
制作会社のネットドラマプロデューサーは「スポンサー不在の影響」を指摘する。
「実は撮影場所や方法にそれほど違いはなく、NetflixもTBSの緑山スタジオを借りることもあると聞いたことがあります。大きな違いはスポンサーがいないこと。その分、作り手の表現したいことが尊重されます。麻薬取締法違反で逮捕されたピエール瀧さんの復帰作はNetflixのドラマですし、沢尻エリカさんが出演した『フォロワーズ』も沢尻さんの登場場面がカットなしで放送されました。『全裸監督』なんて、地上波テレビならタイトルとテーマだけでNGです」
関係者の多くが口を揃えるのが「コンプライアンス問題」だ。昨今の地上波テレビはスポンサーはもちろんのこと、あらゆる視聴者や物事への配慮が先行して、「表現の幅」が狭くなった。元日本テレビエグゼクティブプロデューサーの吉川圭三さんはこう言う。
「たとえば昔の『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』(日本テレビ系)はほとんど妄想に近い内容で、『佃島に半魚人が出た!』といってみんなでバカ騒ぎして楽しんでいましたが、いまならヤラセと捉えられかねない。(同番組で行った)“早朝バズーカ”(寝ている芸能人の部屋に入っていきなりバズーカで大音量をあげる)も同じですが、いまなら不謹慎だとひどく怒られるように思えます」
30年以上、「出る側」として地上波テレビにかかわってきたモト冬樹が演者の本音を明かす。
「本当は『批判が半分、絶賛が半分』がいちばん面白いのに、いまは何かやるとすぐ文句が来るし、みんなスポンサーの顔をうかがっている。おれがやっていた『THE夜もヒッパレ』(日本テレビ系)のように、良質な番組は何度もリハーサルを重ねるなど、作り込む必要があってお金はもちろん、手間暇がかかる。そういう番組もいま、減っているよね。だから自由で面白いネットドラマやYouTubeに視聴者が流れるのは当然だよね」
それでは、実際に制限のないNetflixの作品を手がけた人たちはどう感じたのか。又吉直樹の芥川賞受賞作『火花』の脚本を担当した高橋美幸さんが語る。
「確かにネットドラマは自由度が高く感じました。地上波テレビは視聴率を気にするのでCMの前はチャンネルを変えられないように起伏を作るなど、各話盛り上げなければならないポイントがあります。
しかし『火花』はゆったりとした作り方で、枠も気にせず作るため1話ずつの長さが違うことが特徴でした。日本の視聴者は最後に必ず印籠が出る『水戸黄門』のような、いい意味での予定調和を好むので番組が似通う一方、Netflixの作品にはエッジの効いた面白さがあります」
加えて、日本だけでなく世界で公開されるというメリットもある。しかし北九州連続監禁殺人事件からインスパイアされたサスペンス・スリラー『愛なき森で叫べ』を手がけた映画監督の園子温さんは、「Netflixに作品を載せただけで世界に通じると思うのは甘い」と語る。
「ネットドラマに挑戦するとすぐ“世界を見ている”といわれるけれど、そんなに生易しいものではありません。確かに世界中に配信されるものの、実際に見てもらえるかはわからない。日本人がNetflixに登録しても、インドのホラー映画を見る人は少ないでしょう。それが現実です」
とはいえ同作は、海外の映画賞にも出品されており、世界とつながる媒体であることは間違いない。
勢いづくのはネットドラマばかりでない。以前は売れない芸人やタレントが活路を見出すためYouTubeを利用することが多かったが、最近は佐藤健、よゐこ、川口春奈、渡辺直美などテレビで活躍している芸能人が続々とユーチューバーデビューを果たしている。
「YouTubeの魅力は主体性」と指摘するのは碓井さん。
「テレビはお呼びがかからないと出演できませんが、YouTubeは誰でも主体的にチャンネルを立ち上げられます。若者を中心に見られている媒体で魅力があってファンとリアルタイムの交流ができるし、大当たりすれば大金持ちになれる。今後も“参戦者”は増えるでしょうね」
(「女性セブン」2020年4月30日号)