大阪日日新聞に、
「倉本聰の言葉」の書評が
掲載されました。
ありがとうございます。
「倉本聰の言葉」
碓井広義:編、新潮新書
言葉を旅する楽しさ
ずっとずっと昔。世界の国旗を覚えようとして、すぐさま挫折。地球儀をくるくる回して押さえた場所の国名を言えるようにしようとしたが、回すだけでついぞ指で押さえることはなかった。
しばらく時は過ぎ、思春期と呼ばれる年齢を迎えた頃に小田実の「何でも見てやろう」に感化され、世界中を旅することができる本を読みあさった。もちろん沢木耕太郎の「深夜特急」で、当たり前のようにバックパッカーに憧れたが、ページを閉じた瞬間に旅に出る勇気は見事に消滅。
本書は巨匠・倉本聰の傑作ドラマ全作品の中から厳選されたせりふ400余りが並ぶ名言集だ。ドラマの流れの中での言葉だが、一つ一つを切り取っても心に突き刺さる。深くて、重たくて、潔くて、寂しくて、悲しくて、切ない。
倉本聰を知ったのは「北の国から」。純、蛍を演じた2人は俳優として今も活躍しているが、いつまでたっても純、蛍のままで、申し訳ないがすぐに名前は思い出せない。いつぞやはドラマのロケがあったのだろうか、心斎橋の信号で大人になった蛍とすれ違ったが、「ほんまに大きなったなぁ」と、まるで親戚を見るような感情があふれた。
もはや、バックパックを担いだ世界を歩く旅人にはなれないし、その気力も体力もない。「純、蛍。金なんか望むな。倖(しあわ)せだけを見ろ。」「人が信じようと信じまいと君が見たものは信じればいい。」。今は言葉を旅する楽しさを満喫している。(一)
(大阪日日新聞 2020.05.14)