Quantcast
Channel: 碓井広義ブログ
Viewing all articles
Browse latest Browse all 5568

2013年 こんな本を読んできた (3月編)

$
0
0
ハワイ島 2013

毎週、「週刊新潮」に書いてきた書評で、今年読んできた本を振り返っています。

以下は、3月分です。

(文末の日付は本の発行日)


2013年 こんな本を読んできた (2月編)
真保裕一 『ローカル線で行こう!』 
講談社 1575円

地方鉄道の再生物語とミステリーが融合した長編小説である。舞台は廃線寸前の赤字ローカル線「もりはら鉄道」。県庁から出向して副社長を務める鵜沢哲夫と、新幹線の車内販売員から社長に抜擢された篠宮亜佐美が主人公だ。

利用者の気持ちを熟知する亜佐美は次々と集客イベントを仕掛けると同時に、社内の淀んだ空気も変えていく。タイミングを見て、もり鉄に引導を渡す役割を帯びていた鵜沢だけでなく、株主である銀行や県庁側もその成果に驚かされる。 

一方、自力再生の努力に水を差すような、運行妨害や駅舎の火災など不審な出来事が多発する。明らかにもり鉄を潰すことが狙いだ。誰が、何を目的に仕掛けているのか。存続を賭けた最後のイベント「もり鉄祭り」が刻々と迫る。それは鵜沢と亜佐美、それぞれの人生の勝負所でもあった。

(2013.02.12発行)


沢木耕太郎 『キャパの十字架』 
文藝春秋 1575円

写真の歴史の中に燦然と輝く一枚。ロバート・キャパという戦場カメラマンの名を世界的なものにした記念碑的作品。それがスペイン戦争時に撮影された「崩れ落ちる兵士」だ。共和国軍兵士が反乱軍の銃弾に当たって倒れる決定的瞬間を捉えて、この戦争を象徴するビジュアルとなった。

しかし、あまりに奇跡的なタイミングでシャッターが切られていることで、この写真をめぐる真贋論争が長く続いてきた。フェイクかポーズか。本当に撃たれた瞬間なのか。もしくは、キャパがとんでもない僥倖にめぐまれたのか。

著者はその真実を探るべく、スペインをはじめ各地を取材して歩く。現地、そして現場に立ってこそ見えてくるものがあるからだ。やがて仮説が確信に変わる瞬間が訪れる。キャパという神話に新たな光を当てる、驚きの結論とは・・・。

(2013.02.15発行)


平松洋子 『小鳥来る日』 
毎日新聞社 1575円

第28回講談社エッセイ賞、受賞第1作である。いつもの喫茶店で耳にした若いカップルの会話。レースのすきまの意味。グレン・グールドの椅子。「せっかくだから」という言葉の魔法。日常の中の小さな気づきや再発見が人生のスパイスとなることを教えてくれる。

(2013.01.30発行)


東浩紀 『東浩紀対談集 震災ニッポンはどこへいく』 
ゲンロン 1890円

本書のベースは生放送のWEB対談番組「ニコ生思想地図」。鼎談を含む12の対談を再録している。ゲストは猪瀬直樹、高橋源一郎、津田大介などだ。テーマは震災復興から文学、さらに憲法改正まで。東日本大震災がこの国の言論や文化に与えた影響を概観できる。

(2013.02.01発行)


ナンシー関 『ナンシー関の名言・予言』 
世界文化社 1260円

没後10年を過ぎても、こうして“新刊”が出続ける。ナンシー関がいかにオリジナルな存在だったのかが分かる。「10年後、ヤワラちゃんは選挙に出ている」。著名人の本質を描いた消しゴム版画と寸鉄人を刺すコラムは、まるで悪魔の予言のように今を映している。

(2013.02.01発行)


奥田英朗 『沈黙の町で』 
朝日新聞出版 1890円

朝日新聞に連載当時から話題を呼んだ問題作である。舞台は地方都市。ある夏の夜、中学校で2年生の名倉祐一の遺体が発見される。裕福な呉服店の一人息子で、そのことをどこか鼻にかける癖があり、クラスでもテニス部でも浮いた存在だった名倉。部室の屋上からの転落死だった。

人間関係が都会とは比較にならないほど緊密な小さな町。学校はまさに社会の縮図であり、誰も逃げ場がない。やがていじめ問題が明らかになり、同級生4人が逮捕・補導される。親も教師も激しく動揺するが、警察に対して彼らは多くを語ろうとしない。大人との距離感。自我の葛藤。14歳は微妙な年代である。

名倉の死は本当に他殺なのか、それとも自殺だったのか。物語は少年たちとその親、教師や警察など複数の視点を交錯させながら、驚きの結末へと進んでいく。

(2013.02.28発行)


大谷昭宏 『事件記者という生き方』 
平凡社 1680円

元読売新聞記者で現在はテレビを中心に活躍する著者。本書は半世紀近いジャーナリストとしての軌跡を振り返る自伝的エッセイだ。

「私は生まれたときから新聞記者になろうとしていた」という著者にとって、徳島支局を経て着任した大阪本社社会部は理想の舞台だった。黒田清が率いる、いわゆる「黒田軍団」のメンバーとして数々の事件に遭遇する。総力戦となった三菱銀行人質事件。報道協定に関する課題を残したグリコ・森永事件。現場で事件記者は何を考え、どう動くのかが明かされるだけでなく、警察や報道のあり方も検証されている。

本書で一貫しているのは、多くの人にメディアやジャーナリズムに興味を持ってもらいたいという熱い思いと、取材のプロとしての矜持だ。「悩んだら、なぜその職業を選んだのかを考えろ」の言葉が印象に残る。

(2013.02.25発行)


藤田宜永 『探偵・竹花 孤独の絆』 
文藝春秋 1575円

私立探偵・竹花シリーズの最新連作集だ。還暦を迎えてもクールな竹花だが、「サンライズ・サンセット」ではある男から10年前に家を出た娘を探すよう頼まれる。だが途中で彼が本物の父親ではないことがわかり・・。他の3篇も他者との繋がりをめぐるほろ苦い物語だ。

(2013.02.25発行)


一橋文哉 
『マネーの闇〜巨悪が操る利権とアングラマネーの行方』 
角川oneテーマ新書 1575円

『人間の闇』『国家の闇』に続く闇シリーズ最新作。犯罪の陰で動くカネとそこに群がる人間の欲望にスポットを当てる。旧満州に始まるカネと権力の流れ。やくざ社会の近代化。さらに国際的錬金術からサイバー犯罪まで。戦後日本が歩んだ暗黒の歴史が解明される。

(2013.01.10発行)


北海道新聞社:編 倉本聰:監修 『聞き書き 倉本聰ドラマ人生』 
北海道新聞社 1680円

名作ドラマ『北の国から』の放送開始から30年。1年半に及ぶインタビューを基にまとめられた本書では、その生い立ちから創作の裏側、北海道での生活や環境問題までを語り尽している。また勝新太郎、石原裕次郎などをめぐる、倉本聰ならではの俳優論も貴重だ。

(2013.02.20発行)


福田和也 『二十世紀論』 
文春新書 788円

見えづらい「これから」を考えるために20世紀を総括する。極めて野心的な一冊だ。戦争と人間性の意味を変えた第一次世界大戦。西洋列強による植民地体制を解体した第二次世界大戦。そして究極の総力戦としての米ソ冷戦。まさに戦争の世紀だったことがわかる。

著者は、これからの日本が進むべき道として、世界情勢の客体ではなく主体となり、自ら「治者としての気概と構想」を持たねばならないと説く。アメリカが頼れる存在ではなくなった今、「保護してもらえない被治者」ほど惨めなものはないからだ。

(2013.02.20発行)


葉真中 顕 『ロスト・ケア』 
光文社 1575円

第16回日本ミステリー文学大賞新人賞に輝いたのが本作だ。ベースとなっているのは介護問題である。

物語は43人もの人間を殺害した犯人<彼>に、死刑判決が下される場面から始まる。そこから時間を遡り、複数の語り手が登場する。検事、介護センターの従業員、介護企業の営業部長、母親の介護に疲れたシングルマザー、そして<彼>。やがて殺人事件が起きる。

この小説の主な時代設定は2006年から翌年にかけてだ。それは介護サービスのコムスンが介護報酬の不正請求問題を起こして、厚生労働省から処分を受けた時期と重なる。事件としては人々の記憶から遠くなったが、露呈した介護問題は現在も進行形のままだ。

家族という小さな単位に重い負担がのしかかる介護。本書は現実の事件も取り込みながら、生きることの意味を問う作品となっている。 

(2013.02.20発行)


内田樹・岡田斗司夫 『評価と贈与の経済学』 
徳間書店 1000円

現在多くの支持を集める論客の一人で、思想家にして武術家の内田。サブカルチャーに精通し、オタキング(おたくの王様)と呼ばれる岡田。異色の組み合わせで、社会や経済の新たな見方を提示する対談集だ。

表向きは岡田が敬愛する内田の胸を借りる形をとりながら、実は岡田による鋭い分析が連打される。群れをなしているはずが、何かあれば一瞬で散らばる「イワシ化する社会」。若者たちの仕事や恋愛に対するスタンスを象徴する「自分の気持ち至上主義」などだ。

一方の内田は、人の世話をするのは、かつて自分が贈与された贈り物を時間差で返すことだという「贈与と反対給付」の経済論を展開。岡田の「評価経済」という考え方と相まって、本書の読みどころの一つになっている。その延長上にある「拡張型家族」の提唱もまた刺激的だ。

(2013.02.28発行)


曽野綾子 『不幸は人生の財産』 
小学館 1575円

『週刊ポスト』に連載中のエッセイ「昼寝するお化け」、その2年半分が一気に読める。「国家に頼るな」「人生は収支のバランス」などのメッセージに背筋を伸ばし、「最善ではなく次善を選ぶ」ことの大切さをあらためて知る。ブレない人は物事の本質を突く。

(2013.02.26発行)


中村好文 『建築家のすまいぶり』
エクスナレッジ 2520円

著者は「住宅の名手」といわれる建築家だ。注目すべき同業者たちが自らのために作った家とはどんなものなのか。全国各地の24軒を巡った訪問記である。共通するのは家にテーマがあること、自然体で暮らせること、そして美しさ。それは著者の文章にも通じる。

(2013.02.28発行)


南波克行:編 『スティーブン・スピルバーグ論』 
フィルムアート社 2730円

スピルバーグは40年にわたり映画界をリードしてきた。その作品世界を子供、歴史、戦争、コミュニケーションなど複数の視点から分析した初の総論集。『バック・トウ・ザ・フューチャー』シリーズについて、ゼメキス監督を交えた鼎談で語られる製作秘話も貴重だ。

(2013.02.25発行)


いとうせいこう 『想像ラジオ』 
河出書房新社 1470円

東日本大震災から2年が過ぎた。地震や津波を取り込んだ形の文芸作品がいくつも生まれたが、これほどのインパクトを持つものはなかったのではないか。

主人公はラジオパーソナリティのDJアーク。被災地から不眠不休で放送を続けている。しかし、そのおしゃべりや音楽を聴こうとラジオのスイッチを入れても無理だ。彼自身が言うように、「あなたの想像力が電波であり、マイクであり、スタジオであり、電波塔であり、つまり僕の声そのもの」なのだ。

想像ラジオにはリスナーからのメールも届く。「みんなで聴いてんだ。山肌さ腰ばおろして膝を抱えて、ある者は大の字になって星を見て。黙り込んで。だからもっとしゃべってけろ」。

DJアークは話し続ける。遠くにいる妻や息子を思い、聴いている無数の人たちの姿を想像しながら。

(2013.03.11発行)


立花 隆 『立花隆の書棚』 
中央公論新社 3150円

「本の本」としては突出した一冊である。厚さは5センチ。小さなダンベル級の重さ。全ページの3分の1近くを占めるカラーグラビア、それも本棚ばかりの写真だ。膨大な本が置かれた自宅兼仕事場(通称ネコビル)をはじめ、所蔵する本が並ぶ“知の拠点”が一挙公開されている。

読者は写真を見ながら内部を想像しつつ、この館の主の話に耳を傾ける。まず驚くのは、医学、宗教、宇宙、哲学、政治など関心領域の広さだ。各ジャンルのポイントとなる書名を挙げながらの解説がすこぶる興味深い。

だがそれ以上に、時折り挿入される「本の未来」や「大人の学び」についての言葉が示唆に富む。「現実について、普段の生活とは違う時間の幅と角度で見る。そういう営為が常に必要なんです」。それを促してくれるのが紙の本なのだ。

(2013.03.10発行)


森 功 『大阪府警暴力団担当刑事〜「祝井十吾」の事件簿』 
講談社 1500円

祝井十吾とは大阪府警の暴力団捜査を担うベテラン刑事たちの総称で、著者が名づけた。ここには彼らが追い続けた注目の案件が並ぶ。島田紳助の引退、ボクシング界の闇、梁山泊事件等々。その背後にある暴力団の狙いと動きが著者の徹底取材で白日の下にさらされる。
(2013.03.10発行)


山田健太 
『3.11とメディア〜徹底検証 新聞・テレビ・WEBは何をどう伝えたか』 
トランスビュー 2100円

「ジャーナリズムの基本は、誰のために何を伝えるかである」と専修大教授の著者。では、あの地震、津波、原発事故を、当時この国のメディアはどう伝えたのか。そして何が伝わらなかったのか。それはなぜなのか。冷静な分析と秘めたる怒りが印象的な労作評論である。

(2013.03.05発行)


貝瀬千里 『岡本太郎の仮面』 
藤原書店 3780円

巨匠にして永遠の異端児、岡本太郎。晩年の彼は仮面や顔を描き続けた。しかしその評価は決して高くない。では、なぜそれにこだわったのか。著者は作品と思想に浮かび上がる仮面・顔と、その思想形成の軌跡を追う。行き詰った現代を鼓舞する太郎の意志とは?

(2013.03.10発行)


宇野常寛 『日本文化の論点』 
ちくま新書 756円

気鋭の評論家による現代文化論。現在、戦後的なものの呪縛から解かれた、もう一つの日本が立ち現われつつあると言う著者が挙げるキーワードが、「日本的想像力」と「情報社会」である。登場するのはAKB48、ニコニコ動画、ボーカロイドなど、ポップカルチャーの様々なシーンだ。

そこにはコンテンツを受け取るだけでなく、「打ち返す」「参加する」快楽がある。注目すべきは、コンテンツを媒介とするコミュニケーションの価値なのだ。ネットが発見した「あたらしい人間像」が、これからの社会をどう動かすのか。

(2013.03.10発行)



Viewing all articles
Browse latest Browse all 5568

Trending Articles