異色の法医学ドラマ「監察医 朝顔」
今期が第2シーズンとなる「監察医 朝顔」(フジテレビ系)は不思議な味わいのドラマだ。主人公の万木朝顔(上野樹里)は大学の法医学者。警察が持ち込む遺体を調べ、死因を究明する。ただし、死因を探ることが事件の解決につながっていた「アンナチュラル」(TBS系)などとは趣きが異なっている。
イベント参加者がパニック状態となり、群衆雪崩で死傷者が出た。警察は死亡した青年の痴漢行為が事故原因と考えて起訴しようとし、青年の母親は被害者の家族に土下座して詫びる。だが、朝顔たちは青年の死因がエコノミークラス症候群だったことをつきとめ、彼の無実を証明する。
また野球少年の変死体が見つかった際には、警察が金属バット殺人を疑う中、フェンスにはさまったボールを取ろうとして感電死したことを明らかにする。そのおかげで、事故の責任が自分にあると思って苦しんでいた、少年の弟が救われる。
朝顔たちの仕事は、死者たちの声なき声を聞き、彼らの「生きた証」を取り戻すことだ。解剖を始める前、朝顔は遺体に向って「教えてください、お願いします」と声をかける。まるで生きている人に対するような振る舞いであり、彼女の人物像を象徴しているが、背景にあるのは辛い体験だ。
原作漫画では、朝顔の母親は旅行先の神戸で阪神淡路大震災に巻き込まれて亡くなっている。ドラマではそれを東日本大震災に置き換えた。母(石田ひかり)の遺体は見つかっておらず、刑事である父(時任三郎)は今も休日に三陸まで出かけて探し続けている。
そんな父、朝顔、夫(風間俊介)、娘という四人家族の日常が、職場と同じような比重で丁寧に描かれているのがこのドラマの特色だ。前述の「不思議な味わい」は、法医学ドラマであると同時に、「震災後」を生きる家族のドラマでもあることから生じている。仕事の現場で向き合う遺族と同様、朝顔もまた「家族を失った人」であり、「残された家族」なのだ。
家族とは元々「期間限定」の存在である。親が老いることも、成長した子どもが巣立つことも自然だろう。しかし、家族の「理不尽な死」は悲劇だ。朝顔はそんな人たちに寄り添っている。
(しんぶん赤旗「波動」2020.11.23)