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「新春スペシャルドラマ」何がどうスゴかったか

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『逃げ恥SP』『教場2』… 「新春スペシャルドラマ」 何がどうスゴかったか

実力派の脚本家と演出家が競い合った!

 

新年とは言いながら、新型コロナウイルスの感染拡大で、多くの人が「おめでとう!」という気分になれなかった今年の正月。外出自粛ということもあり、連続ドラマの「一挙放送」とスペシャルドラマに明け暮れた日々だった。

まずは、『アンナチュラル』(TBS系)、『逃げるは恥だが役に立つ』(同)、『MIU404』(同)の全話放送という大盤振る舞いを堪能した。いわば〝野木亜紀子祭り〟である。

野木は現在、脚本家の名前で視聴者を集めることが出来るという意味ではナンバーワンだ。現実社会の「苦み」を入れ込みながら、しっかりエンタメとして仕立て上げるその手腕にあらためて感心した。

次に『24 JAPAN』(テレビ朝日系)の前半戦を再確認する。しかし、本家アメリカ版を忘れるよう努めながら見たものの、やはりなぜこのリメイクだったのかが不明で、残り12本(12時間分)の健闘を祈るばかりだった。

さらに『孤独のグルメ』(テレビ東京系)も楽しんだ。見逃した回だけと思っていたのに、松重豊演じる井之頭五郎の「心のツイッター」的モノローグを味わっていたら、結局全部見てしまった。

そして、これらの「一挙放送」に続いて向き合ったのが、怒涛のスペシャルドラマだ。そこには実力派の脚本家と演出家が競い合った力作が並んでいた。

「攻めのエンタメ」としての『逃げ恥SP』

最初に視聴した正月のスペシャルドラマが、2日放送の『逃げるは恥だが役に立つ ガンバレ人類!新春スペシャル‼』(TBS系)だ。

2016年の連続ドラマでは、システムエンジニアで「プロの独身」を自称する津崎平匡(星野源)が、家事代行サービスでやって来た「高学歴妄想女子」の森山みくり(新垣結衣)と出会い、「契約結婚」という形で同居生活に踏み切るまでが描かれていた。

今回はその続編にあたる。脚本はもちろん絶好調の野木亜紀子。「ラブコメ」というジャンルの既成概念を超えて、物語の中に社会問題を巧みに取り込んでいた。そして演出は連ドラも手掛けた金子文紀だ。全体の明るさだけでなく、濃密な内容と軽快なテンポの両立も見事だった。

みくりが妊娠したことで、2人は契約結婚から通常の結婚へと切り替えざるを得なくなる。話し合いの中で出て来たのが「選択的夫婦別姓」だ。本当はそれぞれの姓のままでいたいが現状では難しく、みくりが津崎姓を選ぶことになった。

妊婦となったみくりに対して、平匡が何気なく口にした言葉がある。「僕もサポートします」というひと言だ。これに「違う!」と反発するみくり。サポートではなく、「一緒に親になるんじゃないんですか?」と問われて、ぐうの音も出ない平匡。こういうシーンがきちんと入ってくるあたりが野木脚本の強さだ。

また、みくりの伯母である「ゆりちゃん」こと土屋百合(石田ゆり子)は独身のキャリアウーマンだが、子宮体がんが見つかってしまう。一人で生きる「自由」と、頼れる人が近くにいない「不安」の間で揺れる百合。助けてくれたのは高校時代からの親友、花村伊吹(西田尚美)だった。

その伊吹が一緒に暮しているのは女性だ。伊吹は、「誰にも言えない」が続いた過去と、押し隠してきた本音をさり気なく語る。このドラマでは女性同士、男性同士のカップルが抱える生きづらさも丁寧に描かれていた。

出産準備の一環として、平匡は会社に1カ月の「育休」を申請する。規定に従って会社は認めるが、現場の上司からはクレームが入る。「お前、仕事ナメてるのか!」と言わんばかりだ。

それを抑えたのは仕事仲間の沼田(古田新太)だった。病気や事故などで誰かが休んでも仕事が回り、休んだ人が帰ってこられる環境を作っておくこと。それがリスク管理だとこの上司に教えたのだ。これまたユーモアで社会問題に切り込む名場面だった。

みくりの臨月が近づいた。産む本人である自分と、夫である平匡の意識のズレが気になる。ゆりちゃんに、「一番言いたいことが言えず、一緒にいるのに孤独」だと訴えた。

「家族といても孤独はある」と百合。その上で、何かあった時に「不安の共有と理解」がいかに大切かを伝えていた。コロナ社会の生き方にも通じる、忘れられないシーンだ。

みくりが元気な女の子を産んだのと、新型コロナウイルスの問題が発生したのがほぼ同時だった。緊急事態宣言、自粛、リモートワークなどが、出来立てほやほやの「3人家族」に押し寄せる。

見る側もリアルタイムで体験してきた現実を踏まえ、ドラマはみくりに明日への希望を語らせた。

「心の中の孤独は、きっと誰もが持っていて、いつまでも消えないのかもしれない。だけど、いつか再び会えた時、少しだけ優しくなって、元気で助け合えればいい」

名セリフであり、ドラマだからこそ伝えられる、胸の奥まで届くメッセージだった。

若手を鍛える「木村教場」でもあった『教場2』

木村拓哉主演『教場2』(フジテレビ系)が放送されたのは、3日と4日の2夜連続だった。

昨年の正月に、やはりスペシャルドラマとして流されたのが第1弾。原作は、第61回日本推理作家協会賞短編部門受賞作『傍聞き(かたえぎき)』をはじめ、心理トリックを使った作品を得意とする長岡弘樹の連作小説だ。

舞台は警察学校である。年齢もこれまでのキャリアも異なる生徒たちが、6カ月にわたる課程に挑むのだ。

しかも学校とはいえ、目標は人材を育てるより警察官に適さない人間を排除することにある。一種のサバイバル・ゲームを生き抜こうとする若者たちの前に立ちはだかるのが、元神奈川県警捜査一課刑事で現在は教官の風間公親(木村)だ。

このドラマ最大の見どころは、生徒たちの心理と行動の全てを見抜く、風間の驚異的な観察眼と心理分析にある。

残酷な方法で仲間をいじめる者、校内で盗みをはたらく者、密かに手製爆弾を作ろうとする者など、寄宿制の学校という閉じた空間の中でいくつもの事件が起きる。風間は生徒が抱える心の闇や秘密と向き合いながらこれらを解決していく。そして警察官になるべきではない人間だけを退校させるのだ。

そんな鬼教官を、木村は笑顔一つ見せずに演じていた。そこにいるだけで怖くなるような凄みと迫力は、木村が風間という人物像について、とことん練り上げた証拠だ。

たとえば不祥事を起こした副教官見習い、田澤愛子(松本まりか)に風間が問いかける。「過ちを犯した者に一番ふさわしい仕事は何だと思う?」と。いぶかしがる田澤に向って、「君がしている仕事だ。警察官だよ」。寡黙で表情を変えないからこそ、短い言葉にも重みがあるのだ。

生徒役の若手俳優陣も力を出し切っていた。前作での川口春奈や大島優子や三浦翔平たちがそうだったように、今回も福原遥、上白石萌歌、濱田岳などが木村との「ぶつかり稽古」で鍛えられたのだ。「風間教場」ならぬ「木村教場」である。

脚本は『踊る大走査線』などで知られる君塚良一。演出・プロデュースは『プライド』や『Dr.コトー診療所』などを手掛けてきた中江功だ。前後編で約5時間の大作は、ワンクール(3か月)分の密度で満たされていた。

滋味あふれる人間ドラマ『人生最高の贈りもの』

4日に放送されたのが、『人生最高の贈りもの』(テレビ東京系)だ。

信州の安曇野に嫁いでいる田渕ゆり子(石原さとみ)が突然、東京の実家にやってくる。翻訳家で一人暮しの父、笹井亮介(寺尾聰)は驚く。当然、帰省の理由を訊ねるが、娘は「何でもない」としか言わない。

実は、ゆり子はがんで余命わずかという状態だったのだ。そう聞いた途端、「なんだ、よくある難病物か」と言う人も、「お涙頂戴は結構」とそっぽを向く人も少なくないと思う。

しかし、このドラマは「そういう作品」ではなかったのだ。見るのが辛いヒロインの闘病生活も、家族のこれでもかという献身的な看病も、ましてや悲しい最期も見せたりはしない。

また特別な、つまり変にドラマチックな出来事も起きない。あるのは父と娘の静かな、そして束の間の「日常生活」ばかりだ。父はいつも通りに仕事をし、妻を亡くしてから習った料理の腕をふるい、2人で向い合って食べる。ここでは料理や食事が「日常の象徴」として描かれていく。

途中、不安になった亮介は、ゆり子の夫で教え子でもある高校教師、田渕繁行(向井理)を信州に訪ねる。そこで娘の病気について聞いた。ゆり子は繁行に「残った時間の半分を下さい。お父さんに思い出をプレゼントしたい」と訴えたというのだ。亮介は自分が知ったことをゆり子には伝えないと約束して帰京する。

娘は、父が自分の病気と余命を知ったことに気づくが、何も言わない。父もまた娘の病状に触れたりしない。その代わり2人は並んで台所に立ち、父は娘に翻訳の手伝いをさせる。

時間を共有すること。一緒に何かをすること。そして互いを思い合うこと。それこそが2人にとっての「最高の贈りもの」なのだろう。石原と寺尾の抑えた演技が随所で光っていた。

思えば、人生は「当り前の日常」の積み重ねだ。昨年からのコロナ禍で、私たちはそれがいかに大切なものかを知った。終盤、信州に帰るゆり子に亮介が言う。「大丈夫だ、ゆり子なら出来るさ」と。その言葉は見ている私たちへの励ましにも聞こえた。

脚本は『ちゅらさん』や『ひよっこ』などの岡田恵和。ゆったりした時間の流れを生かした丁寧な演出は大ベテランの石橋冠だ。見終わった後に長く余韻の残る、滋味あふれる人間ドラマだった。

 


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