「愛の不時着」の次に観るべき韓ドラは?
通が教える作品リスト、
恋愛モノから社会派まで
暦の上では春でも雪解け遠い日韓関係とは対照的に、日本では空前の韓流ブームが沸き起こっている。きっかけとなったドラマはとうに最終回の放映を終えたが、行き場をなくしたファンの心はさまようばかり。ロスを抱えた人々に送る「韓国ドラマ」の処方箋である。
何度も何度も見返してしまう。泣いてしまうのは分かっているのに……。コロナの巣ごもり生活が始まったのは約1年前からだが、奇しくも同じ頃に日本で配信開始された韓国ドラマ「愛の不時着」(以下『不時着』)ロスに陥る人が多い。
未だその人気は衰え知らずで、1月の日本国内における有料動画配信ランキングでも、海外ドラマとしては1位をキープ。東京・原宿で1月から始まった、スタジオセットなどを再現した展示会も多くの観客を集め、今月5日からは場所を大阪に移して開催されている。
物語のヒロインはソン・イェジン(39)演じる韓国の財閥令嬢。パラグライダーの事故で北緯38度線を越えて北朝鮮に不時着し、ヒョンビン(38)扮する北朝鮮軍のリ・ジョンヒョク中隊長に発見される。なんとか彼女を無事に南へ帰そうと奮闘するうち、二人の間に恋が芽生えるストーリーだ。
前代未聞の設定だが、実は2008年に韓国の女優らが乗ったボートが黄海上で漂流した事件がモデルになっている。軍事境界線を越えてしまった彼女らには、北の警備艇の手が迫ったが、韓国軍に救助されたという。
「ラブストーリーを土台にしながら、朝鮮半島情勢など現代社会の問題もしっかり描き切ったことが、ヒットの要因だと思いますよ」
と解説するのは、メディア文化評論家の碓井広義氏。
「同じく大ヒットした、『梨泰院(イテウォン)クラス』も、単純な復讐劇ではなく韓国経済やビジネスの世界が垣間見える内容です。日本のドラマは未だに男女の恋愛をメインに描き切ろうとする傾向がありますから、『不時着』のような設定の作品がなかなか出てこないのは、ある意味で当然だと思います」
そう、「不時着」ロスに苦しむ人々にとって不幸なのは、この名作を忘れさせてくれるほどのドラマに、未だ出会えていないことに尽きる。それは本家・韓国でも同じらしい
「ヒョンビンより人気」
韓流エンタメ事情に詳しい韓国コラムニストの児玉愛子氏も、
「この1年で『不時着』を超える韓流ドラマは現れませんでした。次はこれを観るべし! という作品を一つだけ挙げるのは難しい」
とはいえ、主演男優に的を絞れば、かのヒョンビンを超えるイケメンたちに出会える作品もあると続ける。
「ヒョンビンが持つ、王子のような雰囲気が好きな方にお薦めなのがパク・ソジュン。『キム秘書はいったい、なぜ?』では、秘書と恋の駆け引きをするツンデレな御曹司を演じました。これを観た人は全員が彼を好きになると言われるほど、韓国では今ヒョンビンより人気が高い。とにかくカッコいい王子様を求めるなら、『ザ・キング:永遠の君主』で主演したイ・ミンホも注目です」
イケメン揃いの韓流スターだけに、容姿だけみればヒョンビンと拮抗する俳優は数多い。ここに多くのファンが陥る「不時着」ロスへの処方箋がありそうだ。
ソウル在住で、最新の韓流エンタメ作品をいち早く視聴している人気ブロガーのMisa氏が解説する。 「『不時着』はラブストーリー以外の要素もたくさんあって、いろんなポイントでハマることができました。ロスに陥った人は、『不時着』の何にハマったのか。次にどんな作品を観たいのか。今の自分の気持ちを整理してみてはどうでしょう」
韓国好きが高じて現地に移住した彼女が提案するのは、「ヒョンビン」「韓国ドラマ」「ラブストーリー」という三つのキーワード。今回は「夫婦で観たい」という視点も加えて、「今観るべき韓国ドラマ」をセレクトした。作品名一覧は掲載の表を参照していただきたいが、まずは「とにかくヒョンビンに逢いたい」という人向けのドラマを紹介しよう。
再びMisa氏が言う。
「最初にお断りしたいのは、ヒョンビンが『不時着』で演じたリ・ジョンヒョク中隊長を超えるハマリ役は、他作品でも見ることはできません。それでも外せないのは『私の名前はキム・サムスン』。最高視聴率50%超を叩き出した彼の出世作です」
05年の作品ではあるが脚本としては古さを感じさせず、その5年後に韓国で放送された「シークレット・ガーデン」と同様、ヒョンビンの初々しさを感じられるという。
韓流作品に詳しい映画ライターの佐藤結氏に聞くと、 「前者は30歳の女性パティシエが、ヒョンビン演じる年下の御曹司と恋をする。後者は、やはり御曹司を演じるヒョンビンとヒロインの魂が入れ替わるファンタジードラマです。カプチーノの泡が口についたヒロインに、ヒョンビンがキスをするシーンは、のちに『カプチーノキス』と呼ばれて有名になりました」
3本目の「彼らが生きる世界」も推すMisa氏は、
「テレビディレクターを演じるヒョンビンと、彼を取り巻く恋愛模様が描かれます。ソン・ヘギョ扮するヒロインの気が強いのも『不時着』と類似していますので、その点は、好みが分かれるところですね」
ちなみに、この作品の放送後、ヒョンビンとヒロイン役の女優との交際が明らかになっている。その後、破局したが、今年1月にも彼は「不時着」ヒロイン役のイェジンとの熱愛が発覚し色男ぶりを知らしめた。かような交際報道が日本でも話題となるほど、冬ソナ以来再びの「韓流ブーム」が訪れているのである。
「半沢直樹」よりも
Misa氏によれば、
「これを機に、韓国ドラマの他作品も見てみたい。そう思っている方には『SKYキャッスル~上流階級の妻たち~』はどうでしょうか。上流階級の人間関係を描いた現代劇で社会を風刺した描写が面白い。放送当時、ケーブルテレビで最高視聴率を記録した韓国でのヒット作です」
加えて、田舎で周囲から冷たい視線に晒されるシングルマザーと純朴な警官との恋を描く「椿の花咲く頃」は、「絶対に見逃せない名作」として強く薦めたいと語る。
「『不時着』で北の人民班長を演じた名脇役の女優キム・ソニョンも出演し、親しみやすい作品です。19年の韓国ドラマ最大のヒット作で、恋愛、ヒューマンドラマ、サスペンスの要素が入り混じった脚本が高く評価されました。人生のバイブルとなるようなメッセージ性のある作品で、明日から頑張って生きようと思える感動が味わえます」(同)
少し玄人向けながら、韓国でシーズン2の放送が決定するほどの話題作という「賢い医師生活」は、大学同期の医師5人と患者との生死を巡る物語だ。
「日本の医療モノにありがちなカッコいい手術シーンや悪者の医者が出てくるわけではありません。医者と患者の日常がしみじみと伝わるドラマで、激しい展開に疲れた人に向いていると思います」(同)
そもそも最近の韓国ドラマは、「不時着」のようにラブストーリーが中心にある作品は減りつつあるんだとか。しかしながら、まだまだ恋物語を楽しみたいという場合にオススメな作品はあるのだろうか。
「『星から来たあなた』は、『不時着』と同じ脚本家によるドラマで、実は宇宙人という設定の寡黙な男性と、気の強い有名女優の恋愛物語。最初に『不時着』のヒロインであるセリのキャラクターを見たときに、この作品の女性主人公を思い出したほどで、ヒット作と共通する要素が楽しめると思います」(同)
韓流らしいファンタスティックな設定の「トッケビ~君がくれた愛しい日々~」も、切ないラブストーリーである。
前出の佐藤氏曰く、
「900年以上生き永らえてきたお化けのような男(トッケビ)と、彼の命を絶つことができる女子高生の主人公が、いつしか恋におちる。そんなこと起きるわけないやろ! という設定ですが、本当にあるかもしれない……と思わせる脚本の巧みさと俳優の魅力は、『不時着』と重なる部分があります」
「よくおごってくれる綺麗なお姉さん」は、ヒロインが「不時着」と同じ女優のソン・イェジンだ。
「ここでの彼女もバリバリ働く30代という設定で、パワハラなど職場で受ける理不尽の描写も非常にリアル。そんな彼女の恋の相手役を演じるチョン・ヘインは、年下の癒やし系イケメンとして有名です」(同)
同じ「お仕事ドラマ」でも、社会派の要素が加味されて、恋物語に興味がない男性でも楽しめる、いわば「夫婦で観たい」ドラマを以下に並べてみよう。話に現実味がありすぎて、韓国人でさえ“胸が痛くて観ていられない”と話題を集めたのが「ミセン―未生―」だ。
「日本でヒットした『半沢直樹』よりもリアリティがあるといえばいいのでしょうか。組織の中で葛藤する社員の姿は、共感できる点が多々あるはずです」(同)
先の児玉氏によれば、
「一度でも観た人は、“ここ数年で一番面白いドラマ!”と言うほど。ちなみに主人公と同期のインターン生を演じるカン・ソラは、ヒョンビンの元交際相手です」
男女の恋愛要素はゼロでも、早く続きが観たくなるのが「秘密の森」だとか。
Misa氏に聞くと、
「韓国ドラマってベタな恋愛モノでしょう? なんて偏見を持っている人にこそ観てほしい。韓国の検察と警察の関係を風刺しながら、緊張感溢れるサスペンスが展開される。そんな脚本と演技の質の高さも見どころのひとつ。大人の男女が共に楽しみながらも考えさせられる作品なんです」
トリを飾るのは、日本でもフジテレビが広瀬アリス主演でリメイクした「知ってるワイフ」だ。 「夫婦の関係性についての作品なので、男女で楽しめる作品といえます。夫婦関係に悩む夫が、あの頃にタイムスリップして……というラブコメディです」(同)
サブタイトルは〈過去を変えれば、夫婦も変わる〉――。そんな願望を叶えたら現実はどうなるのか。続きはドラマを観てほしい。
(週刊新潮 2021年3月11日号)