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Channel: 碓井広義ブログ
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朝日新聞で、「容姿いじり」の変化について解説

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「容姿いじり、もう笑えない」

受け手の変化、作り手超す

 

東京五輪・パラリンピックの開閉会式の演出を統括していた佐々木宏氏が、タレントの渡辺直美さんの容姿を侮辱するようなメッセージを演出チーム内に送っていたことを謝罪し、辞任しました。テレビのバラエティー番組で頻繁に目にしてきた「容姿いじり」はどう変化しているのでしょうか。元テレビプロデューサーでメディア文化評論家の碓井広義さんに聞きました。

    ◇

テレビで女性の容姿がいじられるようになったのは1980年代。当時大ブレークしていたビートたけしさんらが中心だったように思います。

女性を「ブス」といじったり、お年寄りをからかったり。それまで笑いの世界がネタにしてこなかったタブーに挑戦する、という試みがウケた。お笑い芸の中でなら容姿などをいじっていいというコンセンサスが生まれました。

男性中心のお笑い界において、容姿のほか、年齢や「モテない」「結婚できない」を笑いのアイテムとし、自分のポジションを確立してきた女性芸人が多数います。

いじられることをうまく芸にすることを楽しんできた人もいるだろうし、そうしなければ男性たちが並ぶ場所に割って入ることができなかったという面もあるでしょう。

その空気を変えたのが2017年、セクハラや性暴力を許さない世界的な運動「#MeToo」です。

女性芸人が容姿で笑いを取るのを何十年もあたりまえだと思っていた視聴者の意識が、作り手より先に変わった。容姿いじりではもう笑えない、不快だ、と感じる人が増えた。女性芸人の側もネタの中身で勝負するようになってきた。渡辺直美さんはその代表格です。

女性だけではありません。

19年に南海キャンディーズの山里亮太さんと俳優の蒼井優さんの結婚が報じられた時、山里さんの容姿を揶揄(やゆ)した情報番組のコメンテーターに批判が集まりました。あからさまな容姿いじりも以前よりは減ったし、新人が容姿を売りに世に出ようとしても従来のようにはいかないでしょう。

13年にフジテレビで「10匹のコブタちゃん」という深夜のトーク番組が放送されていました。

森三中やハリセンボンの近藤春菜さん、柳原可奈子さんらと一緒に、ブタの鼻をつけてレギュラー出演していたのが渡辺さんでした。フジの深夜番組らしいノリで多少はウケたかもしれませんが、番組は1年経たずに終わりました。

佐々木さんの発想は、「#MeToo」もなかったこの時代で止まっていたのかもしれません。受け手の変化が作り手の想像を超えていたことに気付かなかったのでしょう。

テレビプロデューサー時代、1998年長野冬季五輪の開会式の制作に3年間関わりました。総合演出の浅利慶太さんを中心に、そもそも五輪の開会式とは何なのかというコンセプトづくりから取り組むところを近くで見ていました。

世界に向けて何を伝えるのかを考えなければいけない。アイデアの断片だったとはいえ、「渡辺直美の容姿をいじる」からは何も見えません。15秒のCMの世界とは違うということを理解していたのか、疑問です。(聞き手・伊木緑)

うすい・ひろよし 1955年生まれ。メディア文化評論家。テレビマンユニオンのプロデューサー、上智大教授などを務めた。

(朝日新聞DIGITAL  2021年3月19日)

 


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