メディアの礼賛が増幅させた虚像
「疑いようのない才能」
事実より感動を優先した。
影響力のあるメディアが彼の虚像を拡大し、
その結果、多くの人々の心を傷つけた。
<記事のポイント>
・NHKスペシャル「魂の旋律〜音を失った作曲家〜」のインパクトが大きかった。
・番組の中では、音楽学が専門の大学教授が、作品を絶賛。
・東日本大震災の鎮魂歌を作るという佐村河内氏に密着。
・「Nスペ」を制作したディレクターの一人、フリーランスのA氏が、
番組だけでなく書籍も出すなど、佐村河内氏の認知度アップに
貢献した。
・著書の中で、「疑いようのない才能」「兄と思ったり人生の師と思う
ようになりました」。
・しかし、A氏はアエラの取材依頼には応じなかった。
以下、私のコメントを含む部分です・・・・
記譜シーンは取材NG
問題は、取材した素材を番組にする過程で、NHKでもTBSでも、
報道機関としてのチェック機能が働かなかったことだ。
危険信号はあったはずだ。例えば、佐村河内氏は楽譜に書き込む作業は絶対に見せず、A氏(*Nスペをつくった外部ディレクター)もその場面を取材できていなかった。
碓井広義・上智大学教授(メディア論)は、こう指摘する。
「彼を取材対象とした理由に、耳が聞こえないのに作曲するという、普通ではあり得ないことをしている人というのがあったはずです。
その場合、あり得ないことが起きている事実を映像で押さえられないまま、番組として成立させてはいけません」
(中略)
長期にわたる取材の中で、NHKあんどのスタッフは、彼の「全聾」に疑問を覚えることはなかったのだろうか。
昨秋ではあるが、月刊誌「新潮45」は、佐村河内氏が過去の大量の作曲原稿を破棄したとしている
ことや、人生の悲劇を強調していることなどを疑問視する音楽家・野口剛夫氏の論考を掲載。
そうした視点は、佐村河内氏の人間像に迫る取材者にこそ必要だった。
(アエラ 2014.02.17号)