「いやあ、いい映画を観たなあ」と、素直に思える1本でした。
スティーヴン・フリアーズ監督の『あなたを抱きしめる日まで』です。
主演は、最近の『007』シリーズで「M」を演じてきた名女優ジュディ・デンチ。
1952年アイルランド、未婚の母フィロミナは強引に修道院に入れられた上に、息子の行方を追わないことを誓約させられてしまう。その後、息子をアメリカに養子に出されてしまった。それから50年、イギリスで娘と暮らしながら常に手離した息子のことを案じ、ひそかにその消息を捜していたフィロミナ(ジュディ・デンチ)は、娘の知り合いのジャーナリスト、マーティン(スティーヴ・クーガン)と共にアメリカに旅出つが……。
無理やり引き離されてしまった我が子を思い続け、50年後、ついに探すための旅に出る母親。
そう聞けば、「なんだ、古い母モノか」「ベタなメロドラマか」と思うかもしれない。
私も、そんなふうに思っていた。
でも、そんな予断は見事に裏切られる。
特に、途中で息子の生死が判明してからの展開は、「やられた」という感じだ。
そして、やはりジュディ・デンチがすごい。
悲しみや迷いといった、単純そうで複雑な熟年女性の心理を、表情のごく小さな変化で見せてくれる。
彼女の息子探しに同行する元記者のスティーヴ・クーガンもいい役者だ。
ジャーナリストとしての返り咲きを狙う、ちょっと臭みのある男が、少しずつ変わっていく。
どこか、のほほんとした雰囲気もいい。
また、観ながら、あらためて思ったのは、かの国における「宗教」についてだ。
キリスト教の「神」の存在についてだ。
その前提があって、この物語(実話)が成り立っている。
「慈愛」という言葉が意味するものも、私たち日本人の想像を超えているのかもしれない。
それでも、この映画から伝わってくるものは、はっきりわかる。
それは「同じ人間として」とか、「人の子の親として」の部分で、理解できるからだ。
いやはや、本当に、いいものを見せてもらいました。
この「邦題」には、かなり困りましたが(笑)。
原作本(集英社文庫)